電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

下降局面もハイエンドは伸長


~「第43回 ディスプレイ産業フォーラム」開催~

2022/7/1

シニアディレクター 謝勤益氏に聞く
シニアディレクター 謝勤益氏に聞く
 大手調査会社のOMDIAは、7月28~29日にFPD市場総合セミナー「第43回 ディスプレイ産業フォーラム」をバーチャル形式で開催する。FPD市場総論を担当するシニアディレクターの謝勤益(デビッド・シェー)氏に2023年に向けた注目ポイントを伺った。

―― FPDの市況は厳しさが増していますね。
 謝 22年は間違いなく供給過剰の年だ。ロシアによるウクライナ侵攻が当初の想定より長期化しており、インフレも想定よりひどい。20~21年の巣ごもり消費で前倒し需要があった反動も出ており、買い替えを含めた購買意欲は大きく低下している。23年には諸問題が解決に向かい、需給がバランス化することを期待しているが、依然として先行きは不透明だ。

―― 現時点で22年の需給をどうみていますか。
 謝 年初の想定を引き下げ、生産キャパシティーの増加率を10%、面積ベースの需要増加率を4%に下方修正した。
 また、パネル出荷台数についても予想を見直した。テレビ向けは、21年の出荷台数2.59億台に対し、22年は面積ベースこそ2%増になるものの、台数は5%減の2.49億台にとどまると想定。同様に、ノートPC向けは21年の2.92億台から2.41億台、タブレット向けは2.78億台から2.52億台、モニター向けは1.72億台から1.7億台へ、それぞれ予測を引き下げている。

―― テレビ用パネルは過剰感が強いです。
 謝 テレビ各社が在庫を多く持っており、調達量が減っている。シェア首位のサムスンは四半期ベースで1200万~1300万台を購入するのが通例だが、4~6月期は800万台にとどまり、過去10年で最低レベルだ。7~9月期も900万台にとどまるとみられ、価格の反発は当面期待できない。

―― LGのWOLEDに加え、サムスンのQD-OLEDが登場します。
 謝 22年の出荷台数は、QD-OLEDが70万台、WOLEDは当初1000万台の計画だったが、800万台にとどまるとみている。サムスンがWOLEDの供給についてLGと交渉中だが、前述のとおりテレビ需要が下ぶれしているため、22年は調達を急ぐ必要が薄れてしまった。

―― パネル各社の業績も厳しさを増しそうです。
 謝 売価の低下によって売り上げが減少し、なかなか上向かない。4~6月期は多くのメーカーが赤字に転落し、繁忙期の7~9月期ですら赤字を解消できないだろう。パネル価格の低下によって10~12月期には受注が上向き、価格もやや回復することを期待しているが、それでも不足感が強まるまでには至らない。
 これに伴い、高い稼働率を維持してきた中国FPDメーカーも稼働調整を余儀なくされる。液晶パネル工場の平均稼働率は85%だったが、4~6月期は77%に落ち込んでおり、7~9月期には70~75%まで下がる可能性がある。
 なお、23年は、今のところ生産キャパシティーの増加率が4%、面積ベースの需要増加率が6%になるとみている。

―― 設備投資にも多くを期待しづらいですね。
 謝 すでにハンスターの新工場やBOEの3棟目となるG10.5工場の計画が延期になっている。
 今後の主要テーマはIT用有機ELの増産計画だ。アップルが24年からiPad ProやMacbookに有機ELを搭載すると見込まれており、これに他のPCブランドも追随していく可能性が高い。この用途向けにG8.5/8.6の有機EL新工場が計画されており、23年初頭には具体化してきそうだ。

―― インドでFPD新工場の建設計画が浮上しています。
 謝 インド政府の政策の後押しもあって、25年を量産ターゲットにした計画が出ているが、いずれもまだ書面ベースでの合意に過ぎない。装置メーカーに発注が出るまで、実現可能性を慎重にみていく必要があると思っている。

―― 不況のなかでも伸びていく用途や製品は。
 謝 ミニLEDバックライトは、主にハイエンド液晶テレビへの採用が伸びており、21年の200万台から22年は700万台に増える。ハイエンドPCに有機ELの搭載が増えるほか、車載用では電動化によって大型パネルの採用がさらに加速する。フォルダブル有機ELを含め、ハイエンド用途のパネル需要は総じて伸びる見通しだ。

―― AR/VRも注目のアプリですね。
 謝 アップルやフェイスブック(メタ)などがARグラスを開発中といわれ、ゲーム用なども合わせると、シリコンOLEDなどのニアアイディスプレーに大きな商機が来る。AR/VR用ディスプレー市場は21年の6億ドルから25年には35億ドルに拡大すると予測している。

(聞き手・特別編集委員 津村明宏)


 「第43回 ディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報はこちらまで。
サイト内検索