韓国の流通業界大手、新世界(シンセゲ)グループの活発な商業活動が際立っている。舞台は韓国第2の都市、釜山。新世界は最近、韓国の免税店で業界シェアトップ(2012年に50.6%)のロッテと、2番手の新羅免税店(同30.3%)を差し置き、金海空港における免税店の事業権を獲得した。
韓国空港公社釜山地域本部によると、13年7月に実施した同空港の国際線免税店賃貸に対する電子入札で、新世界が最高額を提示したという。同免税店はこれまでロッテ免税店が運営してきたが、13年11月で契約が満了する。新世界は契約締結日から5年間運営を任される。新世界の免税店事業への参入は、釜山パラダイスホテル免税店を買収した12年からと後発だ。しかし、さらなる拡大に向け、事業基盤を整えつつある。
新世界が今回、金海空港の免税店事業権を取得するために提示した入札価格は、年間640億ウォン(約57億円)と推定されている。これは現在の運営者であるロッテ免税店が1年間に払っている賃貸料500億ウォンを大幅に上回る金額だ。金海空港免税店の12年売上高は1600億ウォンで、仁川空港に次ぐ規模を誇る。
空港を利用する観光客は毎年増えており、今後の見通しは明るい。07年にオープンした新国際線庁舎の利用客数は、最近5年間で年平均10.41%の伸び率と、堅調に増加している。エアプサンをはじめ、スターフライヤー航空やエアアジア・ジャパンなどのLCC(格安航空会社)各社が新規就航を本格化し、既存路線も増便した12年は、単年で空港の国際線旅客数が403万人に達した。
韓国では、免税店事業に関して、政府レベルで大手財閥の参入を制限(大中小共生成長政策法)する。今後、大手財閥による免税店の事業拡大は難しくなる。
韓国免税店業界のシェアは、ロッテ免税店と新羅免税店が2強体制を持続してきた。しかし今回、新世界が金海空港の事業権を取得したことによって、業界版図が多少変更される見通しだ。新世界の占有率はまだ低いものの、豊富な資金力と流通チャンネルを生かしていけば、免税店業界においても無視できない存在になる可能性は高い。
新世界は、釜山地域にいわゆる「流通観光クラスター」の構築も目指している。釜山海雲台エリアのセンタムシティ(複合商業施設)や、新世界免税店をはじめ、釜山ウェストン朝鮮ホテルや釜山プレミアムアウットレット(13年オープン予定)に連なる巨大流通ベルト建設を夢見ている。
新世界は、今後、免税店事業をさらに拡大するために、ソウル本店や各百貨店への店舗新設を試みる計画だ。このような攻撃的なビジネスをバックアップするために新世界は、13年通年投資規模を史上最大の2兆5000億ウォン(約2212億円)に策定した。これは当初計画より5000億ウォン増加した金額である。投資の用途は、主に韓国国内における複合商業施設の建設に割り当てる。新世界は、12年10月、セントラルシティを買収する目的で1兆250億ウォンを費やした。この買収代金を除く同社の12年投資規模は、約2兆2000億ウォンであった。
近年、韓国流通産業は、国内外を問わず、厳しい経営環境を強いられている。いわゆる「流通産業の飽和状態」による停滞を余儀なくされているといえよう。しかし、新世界は「不況こそチャンス」という戦略を駆使するかのように、複合商業施設やプレミアムアウットレットなどといった大胆なビジネス展開に奔走している。
韓国経済はついに、GDP成長率2%台という低成長時代を迎えつつある。果たして新世界の挑戦は、韓国流通業界の勢力図を塗り替えることができるのか、注目されている。