ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては欧米を中心に世界的な経済制裁が始まっている。米国はついにロシアからの石油さらには天然ガスの輸入を停止するという方向性を打ち出した。これに追随する国もどんどん増えてくる。確かにロシアは化石燃料の主役である石油の産出量もトップクラスであり、天然ガスの埋蔵量もとてつもなく大きい。
しかしだからと言ってロシアは本当に強いのであろうか。ウクライナにおける市街戦を見ていてよくわかることは、まず第一に戦うスピリッツの違いである。女性たちも銃をもち、一般市民も兵器の演習をやり、人間の壁を作ってまで抵抗するウクライナの人たちの戦うスピリッツはとんでもなく強い。祖国を守るためには命を投げ出してもいいという気合がみなぎっている。これに対してロシア軍の若い兵士は、ウクライナ軍に捕まった時に泣きながらこう述べたという。
「軍事演習かと思って連れてこられた。兄弟とも言ってよいウクライナの人たちを銃撃し、殺戮するなんていうことは僕はできない。ありえないことだ」
こうした厭戦のムードはロシア軍の中に大きく広がり始めている。一切公表されないが、何と部隊ごと戦線から脱走する兵士たちも多く出ているという。それはそうだろう。やりたくもない戦いをやって、自分たちが死ぬのが嫌だからだ。そしてまた罪もない一般市民を狙撃してしまったら、一生呪わしい夢にうなされ続けることになるのだ。そうしたロシア軍の士気の弱さが一気にウクライナを攻め落とすことにつながっていないというのが現状分析だろう。
それはともかくプーチン大統領はソビエト連邦の時代にKGBとして活躍していたと聞いている。今回の作戦にしてもひたすらに古めかしい。戦車とミサイルで叩き潰すという戦法しか考えていない。振り上げたこぶしはおろさない。そして常に強調するのはロシアの動脈線となる石油と天然ガスを持っているという以上、ロシアをないがしろにはできないということだ。
しかしよく考えてみよう。プーチン氏は、SDGs革命の加速状況を全くもって理解できないのだ。CO2排出量を2030年までに現在の50%オフにして2050年にはこれをゼロまで持っていくということは、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を全く使わない社会が出てくるのを意味する。つまりはロシアは国家の経済が成立する最大基盤を失っていくわけなのである。
メタバースという世界もプーチン氏にはこれまた理解できないことなのであろう。今回のウクライナ戦を見ても情報のコントロールがどのくらい大切なことか、ITを使いこなせないことがどれだけ不利なことであるかを深く認識させられる。どう控えめにみても、ロシア軍は情報通信ネットワークがメタクタになっており、命令系統はうまく機能していない。
これに対してウクライナ軍は米国やNATOからの最新情報を常に手に入れて戦局を判断し戦っている。
メタバースはIoT時代の次に来るものであり、簡単に言えばARやVRを駆使して、新たな社会を構築するというものなのだ。具体的にはスマートグラスやスマートウォッチが世界の人たちに必携のものになっていく。この通信に使われるデータ量は膨大なものになってくる。インテルによれば、メタバースによって世界のコンピューティング能力は現在の1000倍になるというのであるからして、どれだけ膨大な半導体が必要になるかと思えば気が遠くなるようだ。
ところでWSTSによれば、ロシアの世界半導体の購入費は何と0.1%未満という有様なのだ。もちろん半導体生産という点でも世界シェアの1%にも満たない。それゆえに半導体が国家安全保障のかなめになってくる時代にあって、ロシアは超後進国にならざるをえない。そしてまたSDGS革命によってロシアの国家経済の基礎はガラガラと音をたてて崩壊していくだろう。
ああそれでも、かのプーチン氏はあの蛇のような眼をして、ひたすら声を張り上げ、自分たちの戦いは正しいなどとわめいているのだ。もうどうにも止まらないとはこのことである。
さてところで、半導体の爆裂成長の勢いは全く止まらないことが驚きだ。2022年1月の世界半導体販売は、前年比約30%増であり全く強い勢いを維持したままなのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。