世の中には快男児と呼ばれる人たちがいる。筆者が40年間追い続けた半導体業界においても、まことに多くの人たちが快男児として活躍していたのだ。その中でも実にユニークとも言ってよい人が、愛媛県西条に本社を置く菱進テックの代表取締役社長の柴田洋孝氏である。
「愛知県の名古屋市で生まれました。父親は町工場ともいうべき鋳物工場を経営しておりました。子供の頃からものづくりの世界に惹かれていたのです。私立滝高校を出て、中央大学法学部(筆者の後輩)に進み、1982年に大手総合電機の東芝に入社しました。そこで得たものは、世界最強のニッポン半導体の世界でありました」(柴田氏)
まだ青年であった柴田氏は、1MDRAMで世界トップの90%のシェアを持つ東芝のすごさにひたすら驚いていたのだ。メモリーをやらしたらめっぽう強い、というのが東芝であり、柴田氏は海外営業に携わりながら半導体の世界にのめり込んでいく。
ところが、父親が地方選挙に出るかもという事情もあって、生まれ故郷の名古屋に戻ることになり、東芝を退社せざるを得ない状況となる。そして彼は、名古屋市郊外のケーブルテレビというスタートアップカンパニーで大活躍し、常務取締役という事実上の会社経営を任されることになる。その後、半導体業界に戻って当時半導体搬送ロボットNo.1シェアで知られるメックスの取締役 営業本部長となり、上場準備を整えながら働くことになるのだ。
「名古屋に戻って仕事をしたのは良いのですが、やはり東京に戻りたいとの思いが強くなり、中古製造装置売買大手の一角であるインターテックに就職することになるのです。そこからは、アメリカのESIジャパン 日本法人 副社長、上場準備中の国内トップ テストハウスであるテラプローブの営業担当役員、半導体洗浄などで知られるタツモ海外法人などの営業統括役員などを歴任し、もうこれで十分やりきったとの思いがありました」(柴田氏)
ところがそれでは終わらなかったのである。故あって菱進テックの代表取締役社長として、2024年に招かれることになり、またもや半導体の世界にのめり込んでいくのだ。同社は、半導体検査(ウエハーテスト)、レーザートリミング(リペア)、信頼性試験(環境試験・動作寿命試験など)、テスト開発および不良品解析を行うカンパニーであり、そのトップとして今もアクティブな活動を続けている。
同社の生産実績は、マイコン(メモリー内蔵)、アナログ/MSIG(ミックスドシグナル)など月産10000枚以上あり、主要設備はマイコン(メモリー)、テスター、アナログ/MSIGテスター、レーザートリマー、その他各種の信頼性試験、環境試験など百数十台の装置設備を所有している。
現在の工場概要は、敷地1万6000m²に延べ1万7500m²があり、グレーチングフロア構造の実装クリーンルーム面積は1万500m²、クリーン度は設計クラス1000(実力としてはクラス100以下)となっている。現状は約150人で法定点検を除く年間365日24時間で稼働しているが、さらなる拡大を狙いに柴田氏は熱くこう語るのである。
「とにかく菱進テックの知名度とユーザーからの信頼を上げていきたいです。得意とするアナログのレーザートリミングを含めたウエハーテストに加えて、将来的にはパワーデバイスのウエハーテストに進出したいと考えています。さらに、オンサイトビジネスとしてお客様の会社の中に菱進テックのテストハウスを立ち上げていくことや、お客様のテスト部門自体を受託するという新たなビジネスモデルを紹介しています。お客様のテスト部門の設備投資軽減と人件費抑制などに貢献できるこの水平分業型モデルの勢いはもうどうにも止まらないです」(柴田氏)
愛媛県は先ごろ、半導体関連産業を徹底強化という方針を打ち出しており、菱進テックを率いる柴田氏の一大活躍がさらに期待されているのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。