電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第619回

エヌビディアは先端AIチップをTSMCの台湾から米国へ生産移行


ソフトバンクは米半導体企業アンペアを約1兆円で買収し、AI向けチップに参入

2025/4/4

 AI向け半導体の世界チャンピオンであるエヌビディアはここにきて重要な決定をしようとしている。それは、最先端のAIチップについて、これまでTSMCの台湾工場に生産委託してきたが、これを米国で量産すべく生産移管を示唆し始めた。

 同社のファンCEOはTSMCの米国アリゾナ新工場にある種の期待をかけている。アリゾナ工場は第1工場から第3工場まで建設される見通しであり、ここには650億ドルの大型投資が実行される。さらに、1000億ドルを投じてアリゾナ以外にも新工場を建設する予定があり、TSMCの米国への投資はなんと日本円で約25兆円規模に達する見込みなのだ。

 この動きにははっきりとしたリスクヘッジの考え方があると見てよいだろう。すなわち、中国政府はここ数年の間に台湾海峡を封鎖し、中国の支配下に置くことを計画しており、これが実行されればエヌビディアのAIチップは危険に晒されることになる。エヌビディアは、ほぼ全量をTSMCに生産委託しているわけであるが、中国によって台湾の最先端プロセスを持つ工場が奪われてしまえば、米国政府にとっても大変なことになるからだ。

 米国政府は、基本的にエヌビディアの先端AIチップを中国に輸出してはならないという方針を打ち出している。中国のAIが進展することを防ぐためである。しかして中国のディープシークがたったの8億円でオープンAIを立ち上げてしまったことには驚きが広がっている。しかも、低価格で高性能であるからして、「これはヤバイ!」と米国政府および米国のAI企業はかなりのショックを受けている。ところがである、中国に輸出されるはずのないエヌビディアのAIチップがディープシークの生成AIには使われているのだ。どうやって手に入れたのであろうと訝る向きも少なくはない。

 不穏なこうした動きの中で、エヌビディアは重大な決定をしようとしている。それとは別に、エヌビディアのファンCEOは米国のインテルに出資するとも言われているが、今のところは正式な打診は受けていないと言明している。インテルは業績不振に陥っており、2024年には世界ナンバーワン半導体企業を維持したが、25年にはエヌビディアがインテルを抜いてトップに立つと業界筋は推測している。

 インテルは特にファンドリー事業が大不振なのである。このファンドリーを切り離すという決定も考えられる。こうした中で、エヌビディアがインテルに出資することも十分にあり得るのだ。実際のところ、台湾TSMCはエヌビディアだけでなく、米国のAMD、ブロードコムに対し、インテルに出資することを働きかけているという一部報道もある。

2024年11月に東京で開催されたエヌビディアのイベント「AI Summit Japan」で対談したジェンスン・フアン氏と孫正義氏(エヌビディアの発表動画より)
2024年11月に東京で開催されたエヌビディアのイベント「AI Summit Japan」で対談したジェンスン・フアン氏と孫正義氏(エヌビディアの発表動画より)
 さて一方で、エヌビディアと事業提携、技術提携の関係にある日本のソフトバンクが半導体分野に直接的に本格参入する動きを見せ始めた。孫正義氏はもともと半導体産業にはものすごい力を入れており、半導体のIPのナンバーワン企業であるイギリスのアームを買収してしまった。そして今回は、米半導体設計カンパニーであるアンペア・コンピューティングを約1兆円で買収することを決めたのだ。ソフトバンクが持っているアームを補完するかたちで役に立てようというのだ。

 アンペアはエネルギー効率の高いAI半導体の設計を手がけており、これを手に入れた意味は大きい。ちなみに、アンペアは元インテルの社長が設立した企業なのだ。AI時代の本格到来で今後もエヌビディアとソフトバンクの動きには当面、目が離せそうもないのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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