電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第620回

台湾TSMCはワールドワイド展開で巨大投資スタート


トランプ政権の関税政策もあり、24兆円を米本土に投入

2025/4/11

 何かと話題のトランプ大統領であるが、「ウクライナ戦争は俺が抑えてやる」と大見得を切ったはいいが、ロシアのプーチン氏はまったくこれを足蹴にした扱いなのである。この動きに対し、トランプ氏は怒り狂ってはいるが、米国がどのくらい強いかをいつか思い知らせてやるなどとうそぶいているのである。

 さてそれよりも、トランプ政権の評判を悪くしているのがバカ高い関税政策である。これは世界の半導体の成長を損なう恐れがあると見る向きが多い。そして、EU諸国は「ふざけるのもいい加減にしろ」と言い始めており、高い関税をかけるなら、こちらも報復のためのすさまじい関税をかけてやると息巻いている。我が国日本はとてもおとなしい国だから、関税は困ったことであるが、それほど強いアピールはしないようである。しかして、世界の体制は米国の関税政策には大反対であるからして、トランプ氏は世界すべてを敵に回す戦いを続けることになるであろう。

TSMCは米国投資を拡大(写真:TSMC創業者のモリス・チャン氏)
TSMCは米国投資を拡大(写真:TSMC創業者のモリス・チャン氏)
 それはともかく、トランプ氏の要請に応じる形で台湾TSMCが米国に1000億ドル(約15兆円)の新たな投資を行うことを内定したことには驚かされるばかりだ。すでに、TSMCはアリゾナ工場に9兆円以上を投じて第1から第3までの3工場の建設をアナウンスしており、すでに第1は実行中である。そして、はっきり分かっていることは同社の熊本工場とは異なり、最先端に近いプロセスの工場を次々と米国に立てていくことなのだ。

 こうした動きには、大きな意味があるだろう。ここに来て、中国が台湾を支配下に入れる動きが顕在化しており、いつ何時でも台湾海峡封鎖が考えられることである。そうなれば、TSMCをはじめとする台湾の半導体企業の工場はすべて中国が占有することになってしまう。TSMCは明らかにこれを懸念している。

 それゆえに、米国への大型投資、日本の熊本への積極投資、さらには独ドレスデンに2棟の工場を建てるというワールドワイドな展開を急ピッチで推進しているのだ。仮に、台湾全土の半導体工場を中国に取られたとしても、米国、日本、EUに巨大な量産拠点があれば良いと考えるのは当然のことである。また一方で、トランプの関税政策もあり、米国本土に集中投資した方がよい、とTSMCは思っているのかもしれない。

 台湾のシリコンファンドリー2番手のUMCも日本国内への新工場建設を構想しているとも言われている。また、同じく台湾のパワーチップセミコンも宮城県に進出しようという動きがあった。加えて、半導体パッケージの大手である台湾ASEも北九州に進出することが内定している。こうした流れを見ても、台湾の半導体企業が日本をターゲットにリスクヘッジのための新工場を設ける理由があることがうかがわれるだろう。

 それにしても、トランプ氏の恐ろしさは台湾TSMCの米国本土への投資を超拡大させてしまったことだ。一連の投資計画をあわせると、24兆円を超える巨大設備投資が米国本土に舞い降りることになる。ちなみに、比較する数字で言えば、昨年の半導体の世界すべての生産額が90兆円であり、台湾TSMCの米国投資がとんでもない金額であることが良く分かる。

 TSMCの米国本土への巨大投資は雇用を生み出し、再開発を生み出し、そしてまた不動産業や建設業、スーパーマーケット、外食産業、ホテルに至るまでの米国産業にビッグインパクトをもたらすことになるのだ。かなりのアブノーマルといわれるトランプ氏は、もしかしたら米国の歴史に名を残す名大統領になるのかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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