電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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イメージセンサー市場


~ポストスマホでの競争本格化

2022/3/11

 電子の眼と呼ばれるCMOSイメージセンサー(CIS)は、デジカメ、スマートフォン(スマホ)、自動車へと搭載用途を広げ、2022年も市場成長が継続すると当社では予想している。ただし、21年は潮目が大きく変わった年になったと分析している。具体的には、スマホ向けの成熟化だ。今後の成長シナリオは「自動車1台に何個搭載されるのか」、つまり「クルマの多眼化」にシフトしたと考えている。

 CIS世界シェア首位のソニーの業績から、そうしたシフトを強く認識せざるを得ない。当社の分析によると、ソニーのシェアは20年の47.6%から21年は43.5%に下がった。業績は想定ほど落ち込まず、健闘の跡がうかがえるが、ファーウェイ・ショックの影響が今になってじわじわ効いてきたという印象だ。

 周知のとおり、米中摩擦の影響でファーウェイは20年秋からスマホの生産台数を大きく落とし、ソニーはファーウェイへCISを出荷できなくなった。当社の調べでは、当時ファーウェイ向けはソニーのスマホ用CIS売上高の20%程度を占めていたとみられる。代わってビーボ、オッポ、シャオミーといった中国スマホブランドがシェアを上げたが、この結果として21年はサムスンやオムニビジョンなどソニー以外のCISメーカーがシェアを上げ、「ソニー独り負け」ともいえる結果となった。

 ソニーのシェア低下は政治の犠牲ともいえるが、一方でスマホ向けCIS市場の転換点にもなったと考えている。例えば、CISを2個以上搭載するスマホの比率は19年10~12月期時点で70%だったが、すでに比率は90%に達し、多眼化の進展に一服感が強まってきた。皮肉なことに、この多眼化のトレンドを牽引してきたのがファーウェイであった。

 また、スマホ用CISに多画素化のトレンドが無いわけではないが、1億画素以上の搭載モデルが飛ぶように売れる状況でもない。要するに、多眼化や多画素化でCIS市場の拡大を牽引してきたスマホ向けは汎用化の流れが強まってきたのだと考えている。

 ソニーは21年に12.5億個のCISを生産したとみているが、数量ベースでスマホ向けは98%前後を占める。金額ベースだと、スマホ向けが75%、デジカメ向けが25%で、自動車用はまだ1%程度にとどまる。抜本的にCIS事業の構成を変えていくタイミングに来ているのだ。

 ToF(Time of Flight)センサーのモバイル分野への搭載が想定ほど進んでいない現状では、ソニーにとって自動車用と産業用を次の柱にできるかが、きわめて重要になる。当社の見立てでは、両市場ともに24年から本格的に業績に寄与してきそうだ。

 VISION-Sの開発は、自動車業界におけるソニーの認知度向上に大きく貢献した。今春設立予定のEV新会社がどの範囲まで事業を展開するか興味は尽きないし、トヨタがEVを30車種展開することもプラスに働くだろう。急拡大するドライバーモニターなどの需要に対応しつつ、事業化している940nmの近赤外(NIR)VCSELなどを組み合わせてLiDARなどへ拡大できるかがカギを握ってくる。

 産業用に関しては、NIRカメラ、シリコンと化合物を融合したSWIR(短波赤外)センサー、偏光子の搭載によってワンショットで4方向の偏光画像を取得することができる偏光センサーの需要増に期待している。ToFセンサーのマシンビジョンへの展開や、AIおよびエッジ技術との組み合わせも用途拡大へ向けた重要なテーマになるだろう。

 一部出資で参画するTSMC熊本新工場の活用法にも注目が集まる。現時点ではCIS用ロジックを生産することだけが明らかになっているが、デンソーが追加出資で新たに参画したことにみるとおり、今後新たな方向性が打ち出される可能性も残っている。ソニーはCISマスター工程をTSMCに委託しないと考えているが、300mmの20nmプロセスで究極のToFセンサーを事業化するといった選択肢が考えられないこともない。

 いずれにせよ、22年のCIS市場は「ポストスマホの競争が本格的に始まる年」になりそうだ。
(本稿は、李根秀氏へのインタビューをもとに特別編集委員 津村明宏が構成した)




OMDIA 李根秀、お問い合わせは(E-Mail: KUNSOO.LEE@omdia.com)まで。
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