JR西日本グループの富山ターミナルビル(株)は、富山駅周辺地区土地区画整理事業地(通称、富山駅南西街区)で新たな商業施設「MAROOT(マルート)」の開発を進めている。開業は2022年春に迫っており、進捗状況や施設内容について、同社常務取締役 企画部長の黒瀬俊英氏に聞いた。
―― 富山駅前で建設中の新商業施設について。
黒瀬 富山駅南側の敷地約7930m²に12階建て延べ約3万8100m²の規模で建設している。すでに外構はできあがっており、開業予定日は22年3月18日とし、計画を進めている。1~4階は商業施設の「MAROOT」、5~12階はJR西日本の「ホテルヴィスキオ富山 by GRANVIA」(182室)として運営する。
MAROOTの店舗数は約75店を予定し、テナントの半数は飲食店、食物販店など、食関連になる見込みだ。富山の強みは富山湾でとれる鮮魚をはじめとした「食」にあることの表れだろう。食系テナントの一例として、スーパーマーケットエリアに出店する「鮮魚 魚廣・富山湾食堂」(生鮮)や「グランマルシェタケダ」(精肉・惣菜)、このほか県内初出店となる「ゴンチャ」などがオープンする。
―― ターゲットやフロア構成は。
黒瀬 「理想の暮らしのアパートメント」を全体のコンセプトにしている。富山は観光客が多い地域だが、MAROOTは地元住民をメーンターゲットに開発している。
フロア構成として、1階は富山が誇る「食」の一大集積フロアとしてお客様を迎える。ここにはスーパーマーケットエリアなども設ける。駅周辺には大型マンションの建設など居住者が増加しているため、地元住民の取り込みが期待できる。
2階は「プライベートルーム」をイメージし、服、雑貨、コスメ、食品などお気に入りのモノに囲まれて暮らすように過ごす空間とする。無印良品が富山駅前の商業施設「マリエとやま」から移転し、売り場面積は従来比約4倍になる。
3階は家族や仲間で集まる「リビングルーム」をイメージし、「ロフト」などが出店する。フロアとしては北欧風の心地よい上質な空間の中で、ハウスウェア、リビング・ダイニング用品、インテリア用品、アウトドア用品、バラエティ雑貨などを提案する。
4階は高原の森と池を模したイベントスペースを設置するほか、レストラン街、毎日を便利にお得に暮らすための「お役立ち発見ゾーン」などを設置する。各階を買い回りしていただける構成を想定している。
―― 富山駅周辺には複数の商業施設がある。機能分担は。
黒瀬 MAROOTのほか、駅前には「マリエとやま」、高架下には「とやマルシェ」があり、駅周辺で買い回りを楽しんでもらえる機能を提案する。とやマルシェは、コロナ前は観光客の利用が多かったが、今は地元のお客様に向けて日常の食の品揃えを強化し、集客力を強めている。
―― 駅前の「マリエとやま」は長年親しまれてきた。今後の展開は。
黒瀬 MAROOTが開業した後には大規模改装を考えている。MAROOTに移転するテナントがあるため、県都駅前の商業施設として足りない業態の導入を考えたい。例えば家電量販、ホームセンター、クッキングスタジオ、クリニック、スポーツジムなど検討できる業態は多くある。アミューズメント関連では、eスポーツも巨大市場になると言われているので注視したい。
―― 駅前では路面電車が南北でつながった。
黒瀬 これまで路面電車は富山駅をはさんで分断されていたが、20年春から駅高架下で連結された。駅北側では、南側と同様な広場の開発工事が進んでおり、当社もMAROOTに併設した新たな立体駐車場(400台)を整備し、従来比2倍の合計800台の駐車場を確保する計画だ。マリエやマルシェには、休日に自動車で来店されるお客様も多いので、新たな駐車場の整備により地元のお客様の来店が増えることを期待している。駅南と北を結ぶ道路も1~2本新設される予定で、富山駅をはさんだ南北の往来が活発になる。これに伴い、駅北側の開発も注目される。
―― 駅前と中心市街地の連携も期待がかかる。
黒瀬 駅前と中心市街地は路面電車でつながっているので、連携して市内の活性化に協力していきたい。中心市街地でもいくつかの再開発が完了し、街中居住が進んでいる。市行政によるコンパクトシティの政策が成功していると思う。
新型コロナによって、観光客に頼りすぎる難しさも出てきた。今後は、地元のお客様の買い物も重要視し、イベントなど消費活動を活性化する取り組みを強めていく。
(聞き手・笹倉聖一記者)
商業施設新聞2425号(2021年12月14日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.362