電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第461回

再生可能新エネルギーの急加速は半導体に好インパクト


太陽光、風力、水素エネルギーなどにパワーデバイスが活躍する

2021/12/10

 SDGsの時代である。猫も杓子もSDGsを言い募る。先ごろ知り合った女性にも、「SDGs的な生き方をしない人とはお付き合いできない」と冷たく言われてしまった。会社のリクルートにおいても、入社を志望する若者たちは「SDGsに優しくない会社には入らない」とまで言っているのだ。

 さて、このSDGsの電子デバイスに与えるインパクトは凄まじいものがある。SDGs全体に対する世界各国の投資は、まずは1000兆円、トータルでは3000兆円という信じがたい金額が投入されると言われている。筆者は少なくともそのうち5%くらいは電子デバイスに落とし込まれると思っているし、半導体という点では2~3%は使われると思っている。

プラマック本社工場に設置した自家消費型PVシステム(電子デバイス産業新聞より)
プラマック本社工場に設置した自家消費型。
PVシステム(電子デバイス産業新聞より)
 これは大変なことなのだ。著名アナリストであられる南川明氏によれば、「とにかく毎年のように2兆~3兆円の金額がSDGs関連で半導体に落ちてくるとすれば、とんでもないことになります」とコメントしているのである。

 かつて太陽光発電において日本は生産も普及も世界トップであったが、今は大きく立ち遅れた。太陽光発電の世界シェアは、中国が80%以上を持ち、ぶっちぎっている。日本勢の巻き返しは難しいだろう。それはさておいて、筆者が注目しているのは、韓国の文大統領が断行すると言い切った水上太陽光である。浮体式水上太陽光発電は先ごろ、同国においてスタートし、2万6000tの温室効果ガスと30tの粒子状物質(PM2.5)などを削減する。これには74億円が投資された。今後、韓国としては驚くなかれ、原発9基分に相当する水上太陽光を一気に立ち上げるというのだ。

 風力発電もまた、日本勢が苦手とするところである。ここに強みを持つのは欧州勢であり、洋上風力についてはEU全体として100兆円を投資すると言い切っている。これまた期待のかかるところなのだ。

 日本の再生可能新エネルギーで期待のかかるのは、地熱発電である。潜在的な地熱エネルギーは世界すべてを調べたところ日本が第2位と言われている。それはそうだろう。火山列島であり、地震列島であり、温泉列島なのだから当然だと言えよう。ここにおける世界トップクラスの企業は何と言っても三菱重工なのである。しかして、地熱発電は地権者の調整、さらには地熱に対するリサーチの長さ、難しさなどもあり、なかなか思うように進まないのが現状なのだ。

 水素エネルギー発電については、日本は世界の先頭を行っていると言ってよいだろう。北九州は世界一の水素都市と言われている。水素だけで燃やす形もあり、石炭、石油、シェールガスなどの化石燃料と、混焼で燃やすタイプの2つがあるが、どちらをとっても良い。画期的にCO2は減るのだ。そしてまた、水素エネルギーを利用した燃料電池という世界も日本は先頭を走っている。家庭向けのエネファームはパナソニックが世界トップクラスであり、燃料電池車はトヨタ、ホンダなどの日本勢が圧倒的に先行している。

 問題は水素のコストなのである。水素は1kgあたり1000円というプライスであり、まずもってこの価格ではお話にならない。そこでまたまた日本勢の出番なのである。旭化成は先ごろ、世界最大級の水素製造装置の開発に成功した。25年の商用化を狙うわけであるが、なんと水素価格を3分の1に引き下げ可能なのだという。2030年には水素1kg330円に持っていく構えだ。これは朗報だと言えるだろう。EVばかりがもてはやされているが、この旭化成のミラクル技術力によって水素価格が画期的に引き下がれば、燃料電池車は究極のエコカーであるからして、一気に普及が進むだろう。

 こうした再生可能新エネルギーをきっちりと動かすためには、何と言ってもパワーコンディショナー(パワコン)が必要になってくる。そのパワコンの中核をなす半導体は、いわゆるパワーデバイスなのである。この分野は三菱電機、富士電機、東芝、ローム、ルネサス、サンケン電気、新電元工業など有力な日本企業が技術においても、投資においても頑張っており、世界シェアトップを狙っている。

 環境にやさしくなることは実のところ、半導体を一杯使うことなのだ。たとえばデータセンターにおいても、莫大な消費電力が常に問題となるが、ハードディスクをNANDフラッシュメモリーに置き換えただけで、劇的に電力消費は下がる。半導体は環境を動かす最重要部品となってきているのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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