OpenStreet(株)は電動自転車、スクーターなどのシェアリングサービスを展開し、シェアサイクルの拠点数は全国約4000カ所に及ぶ。注目すべきは各モビリティに設置されたIoTデバイスにより移動データを取得・分析し、これを自治体などに提供して街づくりに活用していること。目指すのは「都市OS」であり、同社の事業に共感し、様々な企業が出資している。同社執行役員COOの林亮氏に聞いた。
―― 貴社の沿革について。
林 2014年にソフトバンクグループの社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」に採択されたことから事業が始まった。フィジビリティを経て、16年に法人化し、現在、電動アシスト自転車のシェアサービス「HELLO CYCLING」、スクーターのシェアサービス「HELLO SCOOTER」、駐車場のシェアサービス「BLUU Smart Parking」の3つを展開している。
―― モビリティのシェアサービスは競合も多いです。貴社の特徴は。
林 一つが拠点数の多さ。HELLO CYCLINGのステーションは全国約4000カ所あり、駅、コンビニエンスストア、大学、病院など様々な場所に設置している。HELLO CYCLINGはオープンプラットフォームであり、当社1社で展開するのでなく、シェアサイクルを展開する多くの企業と協力しつつシェアサイクル網を構築し、事業を進めている。HELLO CYCLINGでシェアする自転車はボーダーレスに使うことができ、どの拠点でも返却できる。中には東海道を自転車で横断する方、船に自転車を乗せて海を渡る方もいる。
また当社はシェアサービスだけをしているのではない。HELLO CYCLINGではそれぞれのモビリティに取り付けたIoTデバイスを通じて、移動データを取得している。速度、密集度、移動経路、時間帯、属性などを測定できる。これを社内のデータアナリストが分析している。どういった属性の人が、どう動くかなどの傾向が分かり、こうしたデータを自治体などに提供し、街づくりに活用していただいている。
―― 会社として目指していることは。
林 移動の側面から都市OSを作っていきたい。スマートシティなどの分野にも携わりたいと思っており、20年7月に「さいたま市スマートシティ推進事業」に選定された。これに基づき、21年3月に大宮駅とさいたま新都心駅周辺エリアにおいて電動アシスト自転車とスクーター、超小型EVのシェアサービスを開始した。
このマルチモビリティステーションでは今後、各車両に再生可能エネルギー由来の電力を供給していきたいと考えている。以前からこうした様々なモビリティの拠点や再生可能エネルギーを給電するような拠点を作りたいと構想していた。この事業にはENEOSホールディングスも参画しているが、当社が描くモビリティ、エネルギー拠点のビジョンがENEOSホールディングスの構想ともぴったり合致するものだったため出資を受けるに至った。今後はこうしたマルチモビリティの拠点をブラッシュアップしていきたい。
―― 株主構成を見ると様々な企業を巻き込んでいる印象です。
林 海外展開を見据えて双日の自動車本部と協力体制を築いており、街の回遊性向上という点でも、JR東日本と駅から街ナカへと相互の回遊を生み出すことを目指している。他にも、多方面で多くの企業や自治体と提携しており、あらゆる関わり合いを持って事業を進めていきたいと思っている。
―― スマートモビリティの注目が高まっています。
林 我々はこれまで、車の移動利便性による恩恵を受けていた。一方で、低速移動の時代に栄えていた宿場町などに人が立ち寄る機会が減ってしまった。しかしそういう街は歴史や独自の食文化も残っていて面白い。HELLO CYCLINGにより行きづらかった場所へ足を延ばせるようになったという声もあるため、一カ所に寄りがちだった経済を分散できるサービスを作りたい。
そのためには移動を生み出す取り組みも必要。HELLO CYCLINGでは乗ること自体も目的の一つとなるような格好いいモビリティを配し、移動機会を創出していきたいと思っている。また、特定期間に対象ステーションを利用するとクーポンがもらえるなど様々なキャンペーンを実施している。データの蓄積によってユーザーにどのタイミングで何を通知すれば行動変容が起きるかも分かってきた。いかに行動変容を促せるかが大事。移動が変われば街も変わる。様々なデータを活かして街づくりに役立てたい。
(聞き手・編集長 高橋直也)
※商業施設新聞2412号(2021年9月14日)(6面)
OpenStreetが切り開く シェアモビリティの可能性 No.1