広島駅南口にある「エールエールA館」は広島駅南口再開発計画Aブロックの再開開発ビルとして、1999年4月に開業した。現在、大規模リニューアルを進めており、様々な取り組みを行っている。計画段階の90年代から地権者との交渉や建設計画に携わってきた広島駅南口開発(株) 営業部長 大宮勉氏に話を聞いた。
―― これまでの経緯から。
大宮 エールエールA館が建つ場所は、かつて広島駅南口の目の前でありながら戦後復興時からの老朽化した木造家屋が密集した一帯で、都市機能・景観の整備が図られていないことが課題であった。これを受け、81年3月に「広島駅表口周辺地区市街地再開発事業基本計画」を立案し、広島駅前でA、B、Cの3ブックの市街地再開発事業を進めることとなった。
このうちエールエールA館は、敷地面積7086m²にSRC造り地下2階地上12階建て(塔屋含む)延べ7万6307m²、商業面積約4万m²の大規模な複合施設として開発し、広島市の第三セクターとなる当社が管理・運営を行っている。地下2階は地権者の店舗と専門店、地下1階~地上11階には施設の核となる百貨店「福屋 広島駅前店」が入居した。
―― 直近のリニューアルについて。
猿猴川側の外壁ではガラス窓を設置する改修工事が進む
大宮 開業から25年が経ち、周辺の環境が激変した。2009年のマツダスタジアムの開業を皮切りに、開発が遅れていたB、Cブロックの再開発が16~17年に一気に完成し、22年には広島東郵便局跡地の「広島JPビルディング」も完成するなど広島駅前の滞留人口が増えた。いよいよ広島駅ビルの建て替えも完了し、駅前周辺の再整備は集大成を迎えようとしている。同時に、百貨店業界も効率よく運営しなければならない時代になり、福屋の協力も得て館全体で大規模リニューアルを行う方向にまとまった。
一方、広島市では老朽化する広島市立中央図書館の移転先の候補として広島駅周辺が挙がり、当館のリニューアルを機に移転することが決まった。リニューアルはこの図書館などを中核に各フロアを刷新し、地域の交流拠点の整備と広島駅周辺地区の活性化に寄与する。
先行して、24年春に福屋から返床された6~7階を専門店フロアとして刷新した。6階は「ジュンク堂広島駅前店」が区画移設し、絵本雑貨のインショップや文具コーナーを設けたほか、新たに貸会議室や美容室を配置した。7階は広島銀行が1~2階から区画移設し、待合ロビーは緑ある広々とした空間となりお客様からも好評だという。さらに広々としたクリニックモールを整備し、利用する方から好評を得ている。
今後は、26年春に8~10階に120万冊を備える新たな市立図書館がオープンしグランドオープンを迎える。猿猴川が見える南側は眺望を活かしガラス窓を整備して開放感あふれる空間とするようだ。
福屋は地下1階~地上5階に営業フロアを集約し、順次改装を行っている。ちょうど6階は中央が吹き抜け空間になっているため、5階までが百貨店、これより上層階が専門店などのフロアと分かりやすい空間となった。残っていただくテナントは拡大して再配置し、百貨店は効率よく回遊できる面積となり、さらなる館全体の回遊性向上に期待している。
―― 駅前と歩行者デッキでつながるそうです。
大宮 広島駅ビルの建て替えなど周辺地域との回遊性を強化し、官民が連携して駅側と川側に歩行者デッキを新設する。この歩行者デッキにより、当館では買い物客を取り込んでいく考えだ。駅側は、広島駅新駅ビルと2階レベルでつながり、新たな賑わい空間を創出する。このデッキとつながる2階エントランスが集客の新たなカギになるだろう。現在は、地下通路からの来店が多いが、グランドオープン後の来館客数は大幅な増加を見込んでいる。
反対側の川側にもデッキが完成し、これまで館の裏面として扱われてきた川側も正面エントランスとして人々を出迎える。市が整備する歩行者デッキはガラス張りで休憩スペースも多く配置し、ウォーカブルな空間となる。市と連携を図りながら広島駅から市中や川沿いの散策へと続く動線上の館として立ち寄っていただける施設づくりを行いたい。
―― 地下通路にもエントランスがあります。
大宮 地下通路に面する地下2階は23~24年にかけてリニューアルを実施。エントランス前側を中心に人気のテナントを広くするなどしている。タリーズコーヒーも面積を拡張した。総じて既存店対比が伸びている。地下2階の奥は図書館の書庫となるため売り場は減ったが、人気ショップのセリアを配置するなど、選択と集中で再配置することで、お客様にとって効率よく利用しやすい空間となった。
一方で、これからは地下階からだけでなく2階からの動線も加わるため、地下通路前の広場などは音楽など目的性のあるイベントの開催を提案するなど地下の集客向上も狙っていく。
―― 26年春のグランドオープン以降の展望について。
大宮 広島駅新駅ビルにはない図書館や百貨店を2核として、差別化を図っていく。商圏は広域を想定しており、呉、東広島、岩国へとターゲットを広げる。客層は駅前広場の滞留効果や図書館の導入で、子育て世帯や若者の来店に期待している。
(聞き手・今村香里記者)
商業施設新聞2584号(2025年2月18日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.459