電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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パワー半導体は大競争時代に


~カーボンニュートラルが生む半導体需要~

2021/9/17

 自動車の電動化に加え、世界各国がカーボンニュートラル実現に向けて本格的に動き始めたことで、パワー半導体の需要が今後急増すると考えている。再生可能エネルギーなどに巨額の資金が流れ込んでくる見通しであり、日本もこの流れと市場拡大に決して乗り遅れてはいけない。

 欧米やアジア各国の政府がカーボンニュートラル実現に向けて投資する計画を合計すると、5年間で500兆円、年間で約100兆円にのぼる。このうちインバーターなどの省エネ機器は年間で50兆円ほどの需要増が期待でき、ここに向けたデバイス需要は5兆円程度になると試算される。つまり、カーボンニュートラル関連だけで半導体市場規模の10%に相当する額の底上げが見込めることになり、世界のパワー半導体各社がこの需要獲得に動き始めている。

 こうした状況を受けて、当社はパワー半導体の市場見通しを上方修正した。ディスクリート+パワーモジュールの合計で2020年に約215億ドルだった市場は、25年には約330億ドルに達する見込みだ。20~25年の年平均成長率(CAGR)は、ディスクリートが6%、パワーモジュールは15%にもなる。

 パワー半導体市場で高いシェアを誇ってきた日本だが、近年は300mmウエハーを用いた量産で先行する欧州勢に離され、200mm以下の半導体生産を強化している中国勢に急激に追い上げられている。

 欧州では、インフィニオンがオーストリアのフィラッハに新設した300mm工場の稼働を前倒ししており、STマイクロはイタリアのアグラテに整備中の300mm新工場に関してファンドリーのタワーセミコンダクターと共同で立ち上げを加速することを決めた。

 米国による規制で300mm先端プロセスの量産を事実上止められた中国だが、200mmやSiC、GaNに対する投資の勢いはウエハーを含めて桁違いだ。BYDやスターパワー、シランなどをはじめとして新設や増産の計画が雨後の筍のごとく立ち上がっており、この勢いだと5年後には日本を抜くのではないかとさえ思わせる。

 日本企業もようやく重い腰を上げ始めた。三菱電機は、シャープから買収した福山工場に300mmラインを設置して少量生産する方針を明らかにしたほか、東芝は加賀東芝エレクトロニクスへの300mmライン建設にゴーサインを出しており、富士電機も300mmの技術検討を継続中だ。

 ただし、日本企業が単独で300mm量産ラインを立ち上げるには、いずれも事業規模が小さく、投資負担が重い。相対的に利益率が低い家電用インテリジェントパワーモジュールの売上構成比が高いケースなども見受けられ、将来的に中国勢と激しく競合してしまう可能性や、自動車向け一本槍になりかねない危険性もはらんでいる。

 加えて、日本勢がもっとも苦心しているのがエンジニアの不足だ。現在の旺盛な需要に対応し、先行して200mmで生産を拡大している現在、300mm化に向けた開発やライン立ち上げに割ける人材は限られており、「拡大したくても人手が足りない」という声があちこちから聞こえる。

 オールジャパンで300mmへの投資負担を分担しようという動きや、日本進出を検討しているTSMCを活用する検討がなされているのは承知しているが、投資や研究開発の効率を考えると、日本は依然としてメーカー数が多いと言わざるを得ない。容易に解決できる問題ではなく、一方で投資を継続しないと海外の競合に負けてしまうが、「投資の配分」という考え方は何かしら必要だろう。

 配分という点で、研究開発では、NEDOが主導している「グリーンイノベーション基金事業」が絶好の機会になりそうだ。カーボンニュートラル実現に向けて総額2兆円の基金が造成され、半導体などを含む対象分野に対して10年間、研究開発・実証から社会実装まで継続して支援する。今秋から本格的に始動する予定で、パワー半導体メーカー各社がこぞって参画することになるはずだが、各社の強みによって役割分担がより明確になる契機になってほしい。
(本稿は、杉山和弘氏へのインタビューをもとに特別編集委員 津村明宏が構成した)




Omdia 杉山和弘、お問い合わせは(E-Mail: KAZUHIRO.SUGIYAMA@omdia.com)まで。
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