電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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DX本格化で長期需要増を確信


~半導体市況 総まとめ~

2021/5/14

 いつかは来ると言われていたデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が、ついに本格的に到来した。各国政府が半導体産業への資金支援に本腰を入れ始め、TSMCやインテル、サムスン電子が半導体への巨額投資を相次いで表明した現在の状況を鑑みると、誰もが半導体の長期的な需要増を確信したのだと言えるだろう。

 現在の旺盛な半導体需要に対して、発注の重複や在庫の積み増しなどを懸念する声もある。コロナ禍に伴う巣ごもり需要にはいつか終わりが来るし、地政学リスクもあるし、巨額投資には揺り戻しもあるだろう。だが大手半導体メーカーはこうした「一時的な減速」は気にせず、もっと長期的視野で増加し続けていく需要をみている。

 コロナに前後して、半導体の需要環境は様変わりした。当社も、当初は21年の半導体市場を7%増と想定していたが、現在は2桁成長に上方修正した。22年以降も5~7%の伸びが続くと考えており、少なくとも21~22年の需要は強い。一時的な減速を過度に心配する必要はない。

 インテルは、新CEOの就任によって社内のムードが一変した。巨額投資による生産拡大と微細化を再び追求する方針の裏には、米国政府の強力なサポートがあることは疑いの余地がない。TSMCとの関係をこれまでどおり継続しつつ、米国に最先端プロセスを残すことが改めてインテルの使命となった。

 ファンドリー事業への参入を表明したが、TSMCに対抗するようなビジネスモデルは狙わない。インテルの持つプロセスを有効利用してくれる顧客、つまり独自プロセッサーを設計しているグーグルやマイクロソフト、アップルら米IT大手が当面のターゲット顧客になるはずだ。

 先ごろエンティティーリストへの登録企業を増やしたことに見るとおり、米国政府は中国への圧力をさらに強めていく。今のところ人権問題をめぐって小競り合いが続いているが、米国が今後採る方策は「為替」、つまり元高への誘導だ。内需の多い中国には効き目が薄いと見る向きもあるが、かつてはこれで日本の輸出産業が大打撃を受けた。ドルという基軸通貨を持つ米国だけが唯一採れる戦略であり、中国も決して無傷ではいられないだろう。

 今後3年で1000億ドル(約11兆円)の設備投資を表明したTSMCは、5nm以細の最先端プロセスにとどまらず、レガシープロセスの増強にも積極的に取り組む。11兆円のうち1兆円程度はレガシープロセスの増強に投じる見通しであり、レガシープロセスだけで3ライン程度の増強案件が浮上している。

 TSMCのレガシー投資に関しては、日本政府も引き続き大きな関心を示しており、前工程工場の誘致を諦めていない。日本では自動車用の半導体ニーズが高く、28nmプロセスには大きな需要がある。

 その車載半導体では、先ごろルネサス那珂工場300mmライン「N3」で火災が発生した。火災以前の状態にまで装置が搬入されるには3~5カ月を要するとみられる。当社では、自動車の年間生産台数約8000万台に対し、ルネサスのマイコンシェアを30%と想定し、このうち那珂工場N3由来の製品が10%と仮定して、1カ月で20万台、3カ月だと60万台の減産要因になると試算している。

 ルネサスのN3火災以外にも、世界的な半導体生産能力の不足や台湾の水不足といったマイナス要因があり、これが100万~150万台の減産につながるとみているため、現時点で21年は半導体由来で最大200万台程度の減産になると想定している。

 6月以降はファンドリーからルネサスの代替生産品が出荷されるなど、車載半導体の供給自体は増えてくるだろうが、ティア1や商社が在庫を手厚く確保しておこうとする動き自体は変わらないため、タイト感はそう簡単に解消には向かわないだろう。

 自動車にも深く関係しているが、日本のパワー半導体メーカーは踏ん張り時に来た。中国勢がこれまで以上に開発に力を入れ始めたためだ。300mm化やモジュール技術で常に先を行かなければならない。
(本稿は、南川明氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




Omdia 南川明、お問い合わせは(E-Mail: Akira.Minamikawa@omdia.com)まで。
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