電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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需要増と能力不足で影響長期化


~いつまで続く 車載半導体不足~

2021/2/26

 2020年末から世界中で「車載半導体の不足」が叫ばれている。様々な見方がなされているが、当社では「この不足は一時的なものではなく、長期化する」、そして「現在不足しているマイコンやSoC、センサーなどに加え、パワー半導体も不足してくる可能性がある」と考えている。

 そもそも現在の車載半導体不足は、新型コロナウイルスの感染が世界的に急拡大した昨年春に、自動車メーカーの生産台数見通しの縮小に沿って、車載半導体の生産量を減らしたことに起因する。ファンドリーに委託していた生産キャパシティーも一時的に手放したため、その後の急速な需要回復に対して供給が追い付かなくなった。

 影響が長期にわたると考える背景の1つが、半導体の需要増加だ。19~23年における当社の半導体市場の年平均成長率(CAGR)予測は、19年末時点で1%だったが、現在は6%に上方修正している。もともと伸びを見込んでいた自動車用や産業用に加え、コロナ禍でパソコンやタブレットなどの民生用も拡大し、無線を含めた通信インフラ向けも伸びており、少なくとも21~22年は半導体への旺盛な需要が継続しそうだ。

 そして、コロナの経済対策として各国が多額の予算や補助金を組んでいることも半導体需要を押し上げている。なかでも中国は、20年から5年間で総額170兆円を5GやIoTなどの次世代インフラに投資する予定であり、ここに向けた半導体需要も相当な量と金額になる。

 だが、これに対して、半導体メーカーの生産能力は大きく増えてはいない。19~20年にかけて半導体メーカーは能力拡大投資を抑制し、工場稼働率を高く維持することを重視してきたためだ。この間に、米中摩擦の余波によって中国SMICから台湾系など他のファンドリーに転注が多発したことも、半導体の生産が世界的に逼迫する要因の1つになっている。

 自動車メーカーによって、あるいは地域ごとによって、車載半導体の不足感に差があるが、これにはOEMごとの戦略の違いと、半導体商社の存在が関係していると考えている。

 日本のOEMは半導体の調達に商社が介在しているケースが多いが、欧州のOEMはグローバルの直接取引がメーンであり、これが在庫バッファーの差につながった。また、OEMによっては欧州半導体メーカーのデバイス比率を増やしたり、BCPの点から地域ニーズにあわせて地産地消で対応したりという「戦略の差」も不足感の差につながっているようだ。

 OEMや各国政府からの要請に対し、TSMCをはじめとするファンドリーは「不足感解消に努める」ことを表明しているが、多くは期待できない。ファンドリーにとって車載半導体は売上高の5%に満たないマイナー市場だ。そこに巨額な投資をして新ラインを構築したり、製造装置を追加したりすることは考えづらく、何とか生産余力を捻出するという対応にとどまるのではないか。

 こうした状況を考慮すると、車載半導体の不足は少なくとも22年まで恒常的になる。加えて、世界各国が「カーボンニュートラル」を宣言し、風力や太陽光といった再生可能エネルギーへの投資が活発化してきた。この再エネ市場向けにパワー半導体の需要がきわめて旺盛だ。このため先々は車載用と生産キャパシティーを激しく奪い合う可能性があるとみており、そうなれば車載用パワー半導体にも不足感が出てくるようになるかもしれない。

 一部でファンドリーや車載半導体の値上げも起きているが、これは「災いが転じた福」だ。従来の商習慣では価格の見直しは到底受け入れられなかったが、コロナ禍が適正価格に戻す好機になっている。また、半導体メーカー側も、一律に値上げするのではなく、旧製品だけ値上げして新製品への移行を促進するなど工夫をしており、製品サイクルの好循環にもつながりそうだ。

 当社では、一連の車載半導体不足によって、21年の自動車生産台数は年間ベースで約3~5%の台数減につながると想定している。「ジャストインタイムのグローバル調達」だけではカバーできないリスクがあることを認識し、調達先の分散、カスタム品から汎用品への置き換え、ウエハー買いといった対応によって、OEM各社は半導体の調達戦略やサプライチェーンを変えるべき時にきている。
(本稿は、杉山和弘氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




Omdia 杉山和弘、お問い合わせは(E-Mail: KAZUHIRO.SUGIYAMA@omdia.com)まで。
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