(株)日本エスコンは、分譲マンションや商業施設、オフィスビルなど、幅広く開発事業を行う総合デベロッパーである。2018年に、つくばエクスプレスつくば駅前にある商業施設「つくばQ' t」「つくばMOG」、その後19年には「西武筑波店」などが出店していた「つくばクレオ」を取得し、つくば駅前の一体的開発を進めている。同社の常務取締役である江頭智彦氏に話を聞いた。
―― 足元の状況は。
江頭 新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの増加で、通勤途中での買い物利用が激減し、ファッションや飲食店舗は影響を受けている。一方で、生活密着型のスーパーマーケット(SM)、ドラッグストア、100円ショップなどは昨年対比100%を上回る売り上げを記録した。我々が展開しているNSC「トナリエ」は、SMなど生活密着型のテナントを含んだ施設全体の売上高で見るとおおむね好調に推移している。
また、オフィス機能を導入してリニューアル予定であったつくばクレオは、テナントとの出店交渉の時期が緊急事態宣言とかぶってしまい、商業エリアの開業時期を20年秋ごろから21年の春以降に変更した。
―― 開業時期を変更することで施設に変化は。
江頭 コンセプトを大きく変更したということはないが、出店企業の変更は多少あった。事業環境としては大変難しい状況であるが、そこに対応し前向きに事業を推進していこうとしている実力のある企業が出店することになったとも言える。
また、当初はオフィスを上層部2フロアのみに導入予定であったが、つくば駅前へのオフィス需要の高まりを受けて、3フロアにまで拡張。実際に、今までは郊外に点在していた事業所を駅前に集約するという企業の入居も決定している。昨今のテレワーク増加を受けて、テレワークスペースの導入も選択肢のひとつとして検討している。
―― 百貨店のリノベーションの注力点は。
江頭 もともと1フロアが大きく天井高も高いため、その特性を生かした開放感のあるオフィスを生み出そうとした。また元来窓がない作りのため、新たに窓を設けたほか、個別空調を導入するなど快適性に配慮した。
下層部の商業エリアには、50店ほどが出店を計画しているが、百貨店のテナント構成を踏襲する計画はしていない。出店テナントはオフィスワーカーのための利便施設だけでなく、地域の人たちが利用できるSMなど幅広く用意する予定だ。かつては「つくば駅前にできた初めての百貨店」として賑わいを見せた場所が、形を変えてまた活性化するということは、地域にとっても大変意義のあることだと思う。
―― つくば駅前のポテンシャルは。
江頭 つくば駅前周辺では今後、大型の住宅開発が予定されており、居住者の増加が期待される。我々もつくばクレオの隣接地に約200戸規模のマンションを建設予定で、駅前地区はさらなる賑わいが創造されていくだろう。
新型コロナウイルスによって、住宅に対する概念が見直されつつある。かつては都心部への通勤が当たり前だったため、沿線や駅近、会社の近くでの住まい選びが最重要ポイントだった。だが、今はテレワークなど家で過ごす時間が増えてきたことで、住宅の広さやロケーションなど、周辺環境や住みやすさを重視するようになってきた。つくば駅は東京方面まで電車1本でアクセスできるだけなく、周囲には豊かな自然も広がっている。これからのニューノーマル時代に適した立地であると言えるだろう。
―― 今後の展望を。
江頭 我々は商業開発だけでなく、オフィスビルや住宅など幅広い開発を手がける総合デベロッパーである。様々な分野で培った知見やイノベーションのノウハウを、今後の商業開発にも役立てていきたいと考えている。またつくばクレオ以外の商業開発案件も、積極的にリニューアルなどを行っていく。商圏や市場の規模など詳細に調査したうえで、テナントの入れ替えやオフィスへの転換など、我々だからこそできる柔軟な対応をしていく予定だ。
さらに当社は、商業施設の運営事業も日本エスコングループ内で行っており、マーケットの需要に敏感に反応できるのも大きな特徴。グループの連携を活かして、周辺住民やその地域に求められる機能をしっかりと提供していくことを目指していきたい。
(聞き手・編集長 松本顕介、新井谷千恵子記者)
※商業施設新聞2370号(2020年11月10日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.345