電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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需要堅調も投資は大きく減速


~コロナ禍のFPD産業~

2020/10/9

 新型コロナウイルスのパンデミックは、図らずもディスプレー業界に好況をもたらした。当初は中国で製造が低迷し、工場の立ち上げも遅れたが、想定以上にパネル需要が早期に回復した。リモートワークの普及や巣ごもり消費でIT向けの需要は落ちず、6月からは特に北米市場でテレビの需要が伸び、現在も活況だ。

 稼働予定だった新工場の立ち上げ遅れに、韓国メーカーの生産撤退が重なり、低迷していた液晶パネルの価格は急上昇。これによって2020年7~9月期は多くのパネルメーカーが黒字に転換する見通しとなっている。これに伴い、20年のFPD市場規模も当初の想定を大幅に上方修正する必要があるだろう。

 一方で、21年のFPD市場はどうなるのか。現時点で予測するのはきわめて難しいが、そう悪くないと想定している。ただし、パネル価格の上昇がセット価格の値上がりにつながれば、需要がスローダウンする可能性がある。

 21年に厳しさを増すのが設備投資だ。コロナ禍で20年から一部ずれ込む案件があるものの、21年には大型案件がない。20年にBOEのB17やフォックスコン広州(SIO)など10.5Gの液晶案件が完了し、21年にはCSOT深センT7への搬入が残るだけ。HKCは8.6Gの増強を21年にも実施するが、サムスンのQD-OLED向けが一段落した韓国では大きな投資が見当たらない。

 当社では、21年のFPD装置市場は前年比44%減の約84億ドルまで落ち込むと想定している。LGディスプレー(LGD)のP10投資再開や、JOLEDと提携したCSOTのインクジェット印刷技術、BOEのWOLEDなど大型有機EL向けの投資が期待されるものの、すぐに具体化しそうな案件に乏しく、技術のさらなる発展を待つ必要もある。

 こうしたなか、先ごろBOEがCECパンダの南京工場と成都工場を買収すると発表した。これによりBOEの液晶テレビ用パネルのシェアは数量ベースで26%に達し、支配力がさらに高まる。CECはシャープからIGZO技術のライセンスを取得していたが、これをBOEも使えるのか、有機EL向けなどに展開していくことができるのかが今後の注目点の1つになる。

 同様に、サムスンディスプレー(SDC)は蘇州の液晶8.5G工場をCSOTに売却すると発表した。これに伴い、大型パネル市場でSDCのシェアは急落する。今後はQD-OLEDに続く次世代技術QNED(Quantum dot Nanorod LED)ディスプレーの開発進展と事業化投資の具体化に期待がかかるが、安価に量産できる技術が確立されるまでにはかなりの時間を要するだろう。

 また先ごろ、シャープがジャパンディスプレイ(JDI)から白山工場を取得したが、日本にとって良い選択だったと考えている。LGDが21年からiPhone向け液晶のサプライヤーから外れるため、液晶モデルは今後シャープとJDIの2社供給になる。パネルのスペックは今後も大きく変わらないとみられるため、当面は安定したビジネスを継続できる。シャープは亀山第1工場(K1)から白山へiPhone用の生産を移管し、K1では車載用などにIGZOの量産を増やしていく可能性がある。

 技術面では、ミニLEDバックライトの普及に注目している。先ごろ中国TCLが65インチのミニLEDバックライト搭載液晶テレビを900ドルで発売したが、安価な価格設定に相当のインパクトがあった。21年にかけて普及していくとみている。

 ミニLEDバックライトでは、搭載するLEDの灯数とローカルディミングのゾーン数が大事になる。灯数とゾーン数を増やせばWLOEDテレビと同等の価格になる可能性があるが、TCLのようにLEDの搭載密度を低くし、ゾーン分割が少ないローカルディミングを採用するモデルが当面は中心になるだろう。すでにBOEは20年末~21年初頭から65インチと75インチのモジュールを本格的に量産し始める予定になっている。



OMDIA チャールズ・アニス、お問い合わせは(E-Mail: CHARLES.ANNIS@omdia.com)まで。
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