電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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クラウドネイティブとシリコンフォトニクス


~5Gの先をめぐる動きが活発化~

2020/8/21

 5Gの普及が始まったとはいえ、ユーザーの多くがその速度や恩恵をまだ実感できてはいないでしょう。サービスを受けられる国や地域がまだまだ限定されているうえ、用途はゲームや動画のダウンロードなど4Gと大きく変わらず、IoTやモビリティーで利活用が盛んになるには時間がしばらくかかりそうです。

 当社は2020年の5Gスマートフォン(スマホ)の出荷台数を1.7億台と予測しています。新型コロナウイルスの影響もあって、当初見通しの2億台からはスローダウンしますが、コロナ禍にあっても需要は比較的堅調で、予測を上回る可能性もあります。

 この1.7億台を地域別にみると、実に中国が49%と過半を占める見込みです。北米はスタートこそ早かったものの22%にとどまり、中国以外のアジアが17%、西欧が11%です。中国では2000元を下回る5Gスマホが相次いで投入され、ボリュームゾーンになりつつあり、5G序盤戦は「中国の一人勝ち」といえるのかもしれません。

 5G基地局ではファーウェイが技術力で他を大きくリードしているといわれることも相まって、通信業界では早くも「Beyond 5G」、あるいは「6G」をめぐる動きが活発化しつつあります。この実用化に不可欠な要素と言われているのが「クラウドネイティブ」、つまり「ネットワークの仮想化」です。

 ネットワークの仮想化を平たく言えば「ハードウエアを標準化し、ソフトウエアを多用してシステムを構築する」ということです。これは、エレクトロニクス業界でも通信業界でも必ず起きてきた流れです。例えば、かつてはハード主体だったメーンフレームが汎用サーバーに置き換わり、ここにオープンOSのソフトウエアプラットフォームが入ってきました。

 そして、最後までハード技術に大きく依存し、独自性を保ってきたのが「通信基地局」だったわけですが、Beyond 5Gや6Gになると、ここにも仮想化技術が入ってきます。これまでは「オープンOSがない」「国際標準がない」といった理由から標準化が進んでいませんでしたが、昨年から欧米で標準化の動きが出始め、今年になってさらに活発化している印象を受けます。

 アクセスネットワークでは、AT&Tやベライゾンなど米系キャリアが6割以上に仮想マシンを導入しているとされ、日本でもNTTドコモが4割程度を仮想化していると言われています。

 標準化によってハードウエアへの依存性を下げることで、様々なベンダーがキャリアに売り込みやすくなり、その分コストを下げやすくなります。基地局を数多く設置する必要がある次世代規格を実用化へ移すには、コストを下げるための標準化が欠かせなくなってきているのです。

 こうした流れのなか、5G無線アクセスネットワークのオープン化とインテリジェント化を目的に設立されたO-RAN Allianceは5月、通信事業者の業界団体GSMAとの協業を発表しました。一方で、対中国や対ファーウェイを意識してのことと想像しますが、米国では5月に31社から成る新団体Open RAN Policy Coalitionが設立されました。デバイスメーカーとしてはインテルが名を連ねるほか、日本からはNTTや楽天モバイルも参画しています。

 一連の動きをデバイス側から眺めると、今後はシリコンフォトニクス技術の重要性が高まります。インテルはすでに100万個単位で光トランシーバーを量産しており、シリコンフォトニクス技術の開発に力を入れています。シスコシステムズが昨年、シリコンフォトニクスのアカシア・コミュニケーションズを26億ドルで買収したことも記憶に新しいです。

 日本企業の多くが光通信用半導体からすでに撤退していることは残念ですが、シリコンフォトニクスには実装技術も必要とされるため、材料メーカーや光学部品メーカーには大きなビジネスチャンスがあります。もともと日本が強かった光技術が再び脚光を浴びる時代がもう目の前に迫ってきているのです。
(本稿は、大庭光恵氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)



Omdia 大庭光恵、お問い合わせは(E-Mail: Mitsue.Oba@omdia.com)まで。
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