電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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スマホ・自動車から見る中国


~新たなトレンド創出に心血注ぐ~

2020/3/27

 中国がモノづくりで「自ら新たな時代の流れを生み出す」ことに心血を注いでいる。産業界をまたいだ企業間連携やそのスピード感は、日本はもとより欧米をも凌ぐ勢いにあり、ますます侮れない存在になりつつあると感じている。

 例えば、スマートフォン(スマホ)の複眼化は、中国メーカーがトレンドを創った。2019年7~9月期時点で中国スマホ4ブランド(ファーウェイ、シャオミー、オッポ、ビーボ)における複眼モデル(スマホ1台に2つ以上のカメラを搭載したモデル)は8割を超え、シェア上位のサムスンやアップルを大きく上回った。

 19年下期には、この流れにサムスンやアップルも追随したため、当社では19年通年のスマホ複眼化率は6割を超えたとみている。中国ブランドが決定づけた複眼化の流れはもう止まらず、いまや複眼モデルなしでスマホブランドは生き残れなくなった。当社では、22年には8割以上に達すると予測している。

 自動車業界では、これまでユーロNCAPが安全基準の権威として認識されてきた。現在、BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンの欧州ビッグ3を中心に24年の勧告を取りまとめているが、これを紐解くと、将来のクルマはまさしく「走るスマホ」あるいは「モービルオフィス」というコンセプトになりそうだ。

 車室内の通信にはギガビットイーサネットが張り巡らされ、大型の4Kディスプレーがコックピット全面に装備される。ADASには800万画素以上のCMOSイメージセンサーの搭載が推奨される。運転席はもちろん、すべての座席周辺にUSBジャックが備え付けられ、スマホと連携しやすくなる。セキュリティーの高いスマホは、キーの役割も兼ねる。ビジネス向けに車室内を静かにするためアンチノイズリダクション技術が搭載され、電気自動車(EV)の走行時に気になるタイヤのノイズさえ聞こえないようにする。

 こうした技術がすべてクルマに搭載されるのはまだ先だろうが、すでに中国EVメーカーから、こうしたトレンドを想定したようなモデルが登場している。広州汽車(GAC)が19年5月に発売した量産型EVセダン「Aion S」だ。これを先進国の自動車メーカーがベンチマークしているという。

 Aion Sは、Aionブランド初のセダンであり、中国で初めてサンルーフに太陽光発電パネル(PV)を搭載した。サンルーフPVは現在、世界中の自動車メーカーが開発中だが、実搭載した車種はまだ数モデルに限られる。スマホをつなぐと、Aion S自体が「スマホが接続された」ことを認識し、コックピットのディスプレーに表示される。

 フロントカメラ1基、ミリ波レーダー3基、駐車用カメラ4基、77GHzの超音波レーダー12基が搭載され、サイドミラーなどにもカメラが多数搭載されている。運転席の横にはワイヤレス充電パッドが装備されており、スマホの電池切れの心配はない。V2Xはまだ4G対応だが、中国ネットサービス大手のテンセントが強力にバックアップしているようだ。

 当社はAion Sの主要コンポーネント・部品のサプライヤーを調査している。重要保安部品には海外製がまだ採用されているものの、中国ローカルメーカーから調達している部品がかなり多いことが分かっており、中国でティア1が確実に育っていることをひしひしと感じる。これまで欧州の自動車メーカーが中国に投資し、育ててきたローカル企業の技術吸収力は高く、今後さらに存在感を増しそうだ。

 米中貿易摩擦で米国はファーウェイに様々な制約を課しているが、ファーウェイの現状を見る限り、中国の技術力は米国の想定を超えていたと考えざるを得ない。中国はすでにテレビなどの家電製品で高いシェアを獲得し、ディスプレー技術でも他国を凌駕しつつある。スマホの例に見るように、自動車で中国が新たなトレンドを生み出す可能性も十二分にある。
(本稿は、李根秀氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




Omdia 李根秀、お問い合わせは(E-Mail: KUNSOO.LEE@omdia.com)まで。
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