電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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ヘテロジニアスが拡大を促す


~AIの半導体市場への影響~

2020/3/13

 当社では、AI(人工知能)関連システムの市場が2019年の約2100億ドルから25年には約9500億ドルに急成長すると予測している。

 この数字には、すでに顔認証や音声認識を搭載しているスマートフォン(スマホ)市場や、クラウドやデータセンターなどを含むコンピューター市場が含まれるため「金額が大きい」と感じるかもしれない。しかし、海外ではすでに「AIは使っていて当たり前の技術」であり、これをビジネスにどう生かすかという取り組みがきわめて盛んになっている。感覚的にだが、これに対して日本は2~3年ほど意識のズレがあるように思われ、日本企業はもっと積極的にAIを事業に取り込み、社会実装を加速していく必要がある。

 当然のことながら、AI市場の拡大は半導体市場を潤す。異なる種類のプロセッサーを組み合わせて構築したコンピューターシステム上で演算を行うヘテロジニアス・コンピューティングが大きな市場トレンドとなっており、AIと機械学習(マシンラーニング=ML)、深層学習(ディープラーニング=DL)を組み合わせて活用するアプリケーションが数限りなくあるためだ。

 AIの活用が期待される代表例として「創薬」がある。病気と薬の過去の関係や化合物のデータベースをAIで解析し、新たな薬剤の開発期間を大幅に短縮し効率化できる。スマホなどが含まれるテレコム分野、金融やヘルスケアといった分野も有望だ。

 AI関連プロセッサーの市場規模は19年の約220億ドルから25年には約685億ドルへ拡大するとみている。プロセッサーにはCPUやGPU、FPGA、マイコン、Arm RISCコアなど様々な種類が存在する。AIの主な役割に「学習」と「推論」があるが、これまでは学習向けにエヌビディアのGPUやインテルのCPU+FPGAといった大規模プロセッサーが多用され、脚光を浴びてきた。

 だが今後は、こうした学習から導き出された比較的軽めの推論が、マイコンのような小さなロジックデバイスに実装され、エッジコンピューターやコンシューマー機器に多用されるようになってくる。すでにスマホのコ・プロセッサーに利用されているほか、STやNXP、ルネサスらがAIマイコンファミリーをラインアップするなど商品化も進んでいる。IoT用途へさらに利用の幅を広げていくだろう。

 ただ、残念なことは、こうしたプロセッサーメーカーに日本企業がほとんどいない点だ。唯一ルネサスだけがマイコンに名を連ねているが、大規模ロジックでは皆無。しかも、エヌビディアは競合の末にイーサネット技術を持つメラノックスを買収し、対してインテルはイーサネットスイッチASICを手がけるBarefoot Networksを買収するなど、通信分野にも触手を伸ばし始めている。両社ともにデータセンターのネットワーキングで強みをさらに伸ばそうとしているように見え、日本企業とはすでに埋めがたい差がついた。

 一方で、AI関連メモリー市場も躍進すると考えている。19年の市場規模206億ドルが25年には600億ドルを超えてくると考えており、消費電力をさらに下げるためMRAMやReRAMといった新型不揮発性メモリーの実用化も期待される。日本にこうした新型メモリーの要素技術が多数あることも心強い。

 これまでのノイマン型コンピューティングをさらに革新していくため、今後はエンベデッド(組み込み)メモリーの重要性も増す。DLによって重みづけ演算をさらに効率化し、これと新型不揮発性メモリーと組み合わせれば、システム全体の消費電力を大きく下げていくことに役立つ。技術の成熟をまだ待つ必要があるが、25年までには新たな不揮発性メモリー市場の立ち上がりが見えてくる可能性がある。
(本稿は、前納秀樹氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




Omdia 前納秀樹、お問い合わせは(E-Mail: HIDEKI.MAENO@omdia.com)まで。
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