商業施設新聞
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No.736

ポッポと祖父の思い出


新井谷 千恵子

2019/12/17

 「ポッポ」という、主にイトーヨーカドー内に出店しているファストフード店がある。先日、たこ焼きロボットとソフトクリームロボット導入の記者発表に出席したのだが、こんなにも技術が発展しているのかと驚かされた。

 筆者はポッポに思い出がある。あれは高校3年生のとき、ちょうど12月ごろだったと思う。受験が目前に迫り、大学合格は厳しいと周りに言われていた筆者は、兎にも角にも勉強だけをしていた。そんな時、祖父母が遠い岩手から泊まりに来たのだ。祖母は叔父の家に、祖父は筆者の実家に泊まっていたが、受験生なので日々自習室に篭っては勉強する日々、祖父との時間をなかなか取れずにいた。その日も朝に「今日は勉強してくるから帰りは遅い」とだけ告げて、学校に向かった。

 20時ごろ家に戻ると、祖父が一人でリビングの椅子に座っていた。「どうしたの? 近くのイトーヨーカドー行くって朝言ってなかったっけ?」と聞くと、「一緒に行こうと思って待ってた。ほら、ポッポでポテトとか食べさせてあげようかと思って」と、少し悲しそうな笑顔で言われた。その時は今よりも幼く未熟であった筆者は、目前に迫った受験の焦りやうまくいかない憤りを祖父にぶつけるように、「ごめん、勉強しなきゃいけないから」とだけ言った。祖父は「いいよいいよ、じーちゃん一人で行ってくるから心配するな、勉強頑張れよ」と、これまた悲しそうな笑顔で、一人でイトーヨーカドーに向かったのだった。

 それから数年して、祖父は亡くなった。結局その受験の時以来、私は祖父とはほぼ顔を合わすことがないままで。すごく悲しかったが、それもまた忙しい日々の中、少しずつ薄れていった。ある日、件のポッポの前を通りかかった。フードコート内の店舗で、何の気なしに目の前の席に座ってみた。その時ふと、あの時の祖父を想像した。一体どんな気持ちだったんだろう。18歳の孫が、ポテトを食べて大喜びすると思ったんだろうなあ。そういえば、小さい頃よくフードコートにラーメンを食べに連れて行ってくれたな、そして、ポテトが食べたいとか言った気がするな。ああ、祖父の中で私はいつまでもあの頃のままだったんだな。

 そんなことを考えた時、ものすごく悲しくなった。悲しくて悲しくて、とにかく悲しくて、胸が張り裂けそうだった。この時人生の中で初めて“後悔”というものを体験した。長い人生のたった1時間くらい、一緒にポッポに行けばよかったじゃないか。今いくらそう思ったとしても、祖父にはもう会うことはできないのだから。周りから言われていた、「今を大事に生きなさい」という言葉の重みをようやく理解したのだった。筆者はそれ以来ポッポを見るたびに、祖父のことを思い出すのである。

見た目は新しいが懐かしいメニューはそのままのポッポ幕張店
見た目は新しいが懐かしいメニューはそのままのポッポ幕張店
 商業施設には、様々な新しいテナントが入居し、常に変化を続けている。新しいことはワクワクドキドキして素敵だと思う。でも時には、昔からあるテナントのことも思い出してほしい。そこにはきっと、子どものころの楽しい思い出や苦い思い出があり、喜びも悲しみも味わうことができると思うから。
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