電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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LEDビデオウォールが普及期に


~サイネージ市場

2019/9/13

 パブリックディスプレー&デジタルサイネージ市場は、2018年から四半期ベースで100万台を超える出荷が続いており、堅調に成長している。07年以降を振り返ると、年率平均13%成長のペースにあり、この12年間で市場規模は4.4倍に拡大した。

 近年の成長を牽引してきたのは中国。5カ年計画に一区切りがついた足元は一服感があるものの、引き続き国策によるインフラ関連の需要は上向きだ。文教関係では学校の教室にIWB(Interactive White Board=電子黒板)の導入が進み、かつては50インチ前後が主流だったものの、10.5G液晶工場が稼働した現在は取れ効率が高い75インチの大画面へシフトする流れも出てきた。

 一方、日本市場も東京オリンピック・パラリンピックを控えて堅実な需要が続いている。テレビ用パネルをベースに独自ファームウエアを組み合わせた高性能サイネージシステムをソリューション提供する仕組みが小売業を中心に受けており、消費税増税の駆け込み需要と反動が懸念されるものの、引き続き堅調を維持している。今後は交通インフラ&輸送分野や文教関連も普及が見込め、まだ成長し続けそうだ。

 こうしたパブリックディスプレー&デジタルサイネージ市場は、これまで液晶パネルをベースに用途を拡大してきたが、ここにきてLEDビデオウォールが存在感を急速に増している。「欧米メーカーと同じ製品を使っても仕方がない」という発想から、主に中国メーカーが17年ごろからドットピッチ5mm以下のLEDビデオウォールの商品展開を始めたが、直近ではミニLEDやマイクロLEDといった技術の登場で欧米メーカーも興味を持ち始めており、いよいよ液晶パネルとの競合が現実化しつつある。

 現在、55インチFHDの狭額縁液晶サイネージ(画素ピッチは0.63mm)の価格がm²あたり2000~4000ドルであるのに対して、画素ピッチ2.5mmの27インチLEDビデオウォールの価格はm²あたり1万~1.2万ドルと、まだ開きがある。だが、LEDのコストダウンは年率15~20%と激しく、参入メーカーが増えれば価格差が一気に縮まってきそうだ。

 液晶サイネージはこれまで、狭ベゼルのパネルをタイリングして大画面を実現してきた。すでに1mm以下の狭ベゼルを実現できてはいるが、それでも目地は残る。しかし、LEDサイネージはLEDモジュールをタイリングするため、事実上ベゼルがない。タイリングによるディスプレーサイズの自由度もLEDの方が液晶よりも高く、モジュール単位の交換だけで済むため、メンテナンスやリペアも容易で、ダウンタイムも短くできる。

 現在のところ、ビデオウォール用のLEDモジュールは、チップサイズがミニなのかマイクロなのかは別として、最新の開発品として画素ピッチ0.5mm前後まで登場している。現在の売れ筋は画素ピッチ2~5mm品だが、1.5~2mmピッチ品の価格が急速に下がってきており、このクラスが今後のボリュームゾーンになるとみている。

 LEDビデオウォールでは現在、1mmピッチ以下に「価格の壁」がある。例えば、ミニLEDを採用した0.85mmピッチ品(画面サイズは36.4インチ)の価格はm²あたり5.5万~6.5万ドル、0.7mmピッチ品(画面サイズ27インチ)はm²あたり10万~11万ドルと、2.5mmピッチ品に対して価格は最大で10倍だ。これをいかに小さくできるかが普及のカギだ。

 一方、コストダウンに向けた提案も出てきた。RGBチップで構成される画素を1枚の基板上の4つの角に並べた「4in1パッケージ」だ。このパッケージを規則的に並べると、COBパッケージを個別実装するのに比べて狭ピッチをより実現しやすくなる。

 こうして液晶とLEDを比較すると、3~5年先を考えた場合、液晶サイネージの将来は厳しい。「液晶ならではの利点」を訴求しなければ、コストダウンによって、ある日突然LEDに代替される可能性すらある。液晶の強みは、LEDほど色ばらつきが大きくない(ホワイトバランスに優れる)ことだが、それだけでLEDの侵食を防ぐのは難しいだろう。
(本稿は、氷室英利氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology コンサルティング・ディレクター 氷室英利氏、お問い合わせは(E-Mail: Hidetoshi.Himuro@ihsmarkit.com)まで。
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