電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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米中摩擦で需要や投資に変化


~「第37回ディスプレイ産業フォーラム」開催(2)~

2019/6/21

シニアディレクター 謝勤益氏
シニアディレクター 謝勤益氏
 大手調査会社のIHSマークイット(テクノロジー部門)は、7月25~26日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第37回 ディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では注目の講演内容を登壇アナリストに聞く。第2回は「FPD市場総論」を担当するシニアディレクターの謝勤益(デビッド・シェー)氏に話を伺った。


 ―― FPD市況の見方が年初から大きく変わってきました。
 謝 FPD供給面積の伸び率は約10%、需要面積の成長率は約7%で、年間を通じて供給過剰であるという前提は変わっていない。だが、激しさを増した米中摩擦の影響が下期の需要にネガティブに働くと考えており、これに伴って新規投資も鈍化する。

 ―― 関税がかかればテレビ市場に影響が出ますね。
 謝 追加関税がかかれば北米を中心にテレビ需要にマイナスの影響が出ることは確実であり、セット&パネルメーカーは過剰在庫を避けようと苦心している。テレビ用の液晶パネル価格は3~4月は少し上昇したものの、5月からまた下がり始めた。今後は、9月ごろに若干値上がりする可能性はあるものの、下期は値下げ圧力がさらに強まっていく可能性が高い。

 ―― 韓国サムスンがQD-OLEDへの投資を決断し、テレビ用液晶の生産能力を削減すれば、需給が少し引き締まるという期待もありました。
 謝 QD-OLEDには高度な量産技術が求められるため、まだ事業化へのゴーサインは出ていない。だが、サムスンは1~3月期に大きな営業赤字を出し、事業の構造改革が待ったなしの状況にあるため、QD-OLEDを事業化するか否かにかかわらず、液晶の生産能力を削減せざるを得ない。8月ごろには姿勢が明確になるのではないか。

 ―― スマートフォン(スマホ)市場でファーウェイ問題が深刻です。
 謝 米国企業がファーウェイへの部品出荷を停止したことに伴い、ファーウェイのスマホ向け液晶&有機ELの需要に影響が及ぶ。ファーウェイ向けのパネル需要は下期だけで当初計画から3割減少する可能性がある。逆に、米中摩擦の影響を受けないサムスンのGalaxyブランドには追い風が吹くが、スマホ用パネル全体で考えるとマイナス影響の方が大きい。

 ―― 19年は「フォルダブル元年」と期待されましたが、新端末の発売が延期されたままですね。
 謝 サムスンのGalaxy Foldがヒンジを含めたセットの設計などに品質や信頼性のトラブルを抱え、今後の発展性に疑問を持たざるを得なくなった。ファーウェイが発売予定のMate Xを含め、10~12月期にはリリースされるとみているが、需要予測は下方修正せざるを得ない。

 ―― 新規設備投資に対する影響は。
 謝 すでにフォックスコンの広州10.5G工場への投資計画が縮小していることに加えて、BOEの武漢やCSOTの深センT7といった10.5G工場への投資計画が総じて当初計画から3~6カ月遅延する。BOEの6G有機EL工場である重慶B12や合肥B15も後ろ倒しになる。米中交渉のなかで中国政府の補助金が問題視されているため、今後は新工場への補助が出しにくくなり、金額もシュリンクしていくためだ。

 ―― ポジティブな要素はありませんか。
 謝 ミニLEDバックライトの搭載拡大、主にゲーム用のハイエンドパネルの需要増、そしてミドルレンジのスマホへのフレキシブル有機ELの採用増が挙げられる。
 ミニLEDバックライトは、HDR対応として年後半から搭載比率がぐっと高まる。ゲーム用パネルでは144Hz以上の高リフレッシュレートや高精細のLTPSあるいはIGZOが求められており、需要も旺盛だ。スマホでは、グーグルやオッポ、ビーボらが中価格帯の製品にもフレキシブル有機ELを搭載してくるため、搭載シェアがさらに上がるだろう。また、これらに必要な高色純度材料やCOF、偏光板などの新規部材には旺盛な需要が期待できる。

 ―― これ以外にトピックスはありますか。
 謝 中国は生産ボリュームでFPD世界No.1になったが、技術力ではまだ劣る。だが、技術力でもNo.1になるため、有機ELの技術開発をさらに強める。なかでもインクジェット技術を活用したテレビ用有機ELの事業化を本格化してくるとみており、早ければ19年後半にも投資決定、20年中に量産というスケジュールで動きそうだ。今後も補助金を得るには、新技術へのチャレンジが不可欠であるためだ。

(聞き手・編集長 津村明宏)



「第37回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報はセミナー事務局(E-mail : technology.events@ihsmarkit.com、Tel.03-6262-1824)まで。
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