電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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GAFAが映像で攻めてくる


~注目集める日本の動画配信市場~

2019/4/26

 いま、世界の大手企業から高い注目を集めている市場が日本にある。それは「ペイTV」、いわゆる動画コンテンツの有料配信サービス市場である。

 当社の調査によると、日本はすでに3400万世帯にブロードバンドが普及しており、これは中国、米国に次ぐ世界3位。ペイTVの浸透率も75%と高く、スマートフォンの保有率も高いため、Netflixをはじめとする海外OTT(Over The Top)事業者にとって日本市場はまさに垂涎の的なのである。

 実際、日本市場の開拓はNetflixの戦略にも合致している。2018年のNetflixの契約者数を地域別に見ると、65.8%を占める北米に対し、アジア・パシフィック(APAC)は14.1%とまだまだ低い。これを22年には30%以上に高める考えで、その中心としてインフラとコンテンツが充実している日本市場の開拓に注力しているのだ。

 海外OTT事業者が日本に注目するもう1つの理由に、日本のコンテンツ自体の人気が世界的に高いことがある。例えば、又吉直樹さんの芥川賞受賞作『火花』はNetflixが初めて実写化した。テレビ放送の4K/8K化が世界的に普及するにはまだかなりの時間を要するが、OTT事業者が4K/8Kコンテンツの独自制作を活発化すれば、4K/8Kテレビの普及拡大に今後大きく寄与することになるだろう。

 日本市場への進出に熱心なのは、Netflixに限らない。スポーツコンテンツに強いDAZN、Amazon Prime Videoを展開するアマゾン、米国に本社を置くHulu(Hulu Japanは日本テレビの傘下)などが激しくシェアを争っており、この結果として徐々にレンタルDVD/CD店が街中から姿を消しつつある。

 当社の調べで、日本のペイTV&オンライン視聴契約市場を契約者数ベースで見た場合、18年時点で首位はdTV、2位はJ:COM、3位がスカイパーフェクTV(スカパー)、4位がNTTぷらら、5位がWowowで、6位にアマゾン、7位にNetflixがランクインしているが、22年にはアマゾンが首位、Netflixが4位に順位を上げると予測する。日本人が好む高精細な4K/8Kコンテンツや海外コンテンツのさらなる充実、視聴者の好みをAIで分析してお勧めするリコメンドサービスの強化、OTT事業者が資金を提供して制作するオリジナルコンテンツの拡充などで、日本の放送局やコンテンツ制作会社は今後大きな脅威にさらされることになる。

 加えて、アップルがこの市場に本格参入する意向を示した。月額いくらになるのか未発表ではあるものの、オリジナルコンテンツを提供する「アップルTV+」、様々な有料チャンネルをまとめて提供する「アップルチャンネル」(ただしNetflixは非加入)を展開する予定。アップルTV+に関しては、サムスンやソニーなどAndroidベースのスマートテレビでも視聴が可能になる。

 アップルはこれまで、iPhoneやiPadなどハードウエアを中心としたビジネスで収益を拡大してきたが、動画コンテンツ事業への本格参入は、ハード事業に厳しさが増してきていること、そして新たな収益の柱を動画コンテンツに求めていることの証左に他ならない。

 これに加えて、映画をはじめとする独自コンテンツを豊富に持つ米ウォルト・ディズニーは動画配信「Disney+」のサービス立ち上げを予定し、ワーナー・ブラザースも新たな配信サービスを開始予定で、OTT事業者に対抗する意思を見せている。一方で、アップルとグーグルはオンラインゲーム事業への参入も表明した。

 5Gインフラが普及すれば、2時間の映画を3秒でダウンロードできる時代が来る。ストリーミングで動画コンテンツを自由に見る機会も増えるだろう。こうした「黒船」の大挙襲来に対し、日本の企業やメディアはどう対抗していくべきだろうか。先ごろNTTドコモは、映像関連事業の強化へNTTぷららを子会社化することを決めた。豊富なコンテンツ資産を有効活用できる事業体制さえ整えば、黒船に対抗してシェアを維持していける可能性はあるはずだ。
(本稿は、前納秀樹氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology コンサルティング・ディレクター 前納秀樹、お問い合わせは(E-Mail: hideki.maeno@ihsmarkit.com)まで。
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