商業施設新聞
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No.696

ラプソディ


松本 顕介

2019/3/5

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観た。英国ロックバンドのクイーンのボーカルで、この映画の主人公フレディ・マーキュリーが、英国ロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催されたチャリティコンサート「ライブ・エイド」のステージの扉の前で仁王立ちする冒頭のシーン。それを見て、当時世界に向けて放送された「ライブ・エイド」でフレディ・マーキュリーが「RADIO GA GA」を実際に歌うシーンが蘇った。同時に1985年7月の様々な風景や記憶が、頭の中を駆け巡った。

 当時、アフリカの飢餓を救えと、多くのミュージシャンが立ち上がった。その流れをつくったのが前年の84年12月、イギリスのミュージシャンで結成した「バンド・エイド」がリリースした「Do They Know It Christmas」。85年に入ると、イギリスに負けるなとばかりに、アメリカのミュージシャンが「USA for Africa」を立ち上げ「We are the world」を世に送り出す。85年はそんなチャリティが大きなムーブメントになっていた。

 翻って我が国ニッポン。85年は、つくば博が開催されていたし、なんといっても「85年のタイガース」と言われるほど、この年の阪神タイガースは、バース・掛布・岡田のバックスクリーン3連発などの記憶に残るシーンの数々が史上最強と思えた。すでに7月ごろには、ペナントレースをほぼ手中にしていたぐらい強かったと記憶している。8月には日航機が墜落する悲しい事故もあった。また、この年は男女雇用期間均等法やプラザ合意と、その後の日本の行方を方向づける年だった。

 話は戻って、映画はそんなクイーンの誕生からライブ・エイドまで描かれる。時代としては70年代から85年まで。その当時の空気感のようなものを映像化するのは難しく、ファッション、街並みなどの再現ぶりが楽しい。そういえば、87年に公開された映画『アンタッチャブル』では、30年代の禁酒法がはびこっていた米国シカゴが舞台だが、見事に再現していたと思う(もっとも本物を見たことがないのだが)。セットなのか、使える建物が残っていて、うまく撮影したと思ったものだ。

新しいビルが次々建つ
新しいビルが次々建つ
 日本の場合は街の風景がどんどん変わるので、“時代もの”ができないと思っていたが、今日ではテクノロジーが不可能を可能にする。NHK大河ドラマ『いだてん』では、日本橋に工事中の首都高速の高架が掛けられようとしている。当時は都市インフラとして重要なものだったが、今日では景観を壊すとして、地下化が決定した。数十年後、「信じられるかい? ここに高速道路が走っていたんだよ」と青空を見上げて語られるに違いない。

 いよいよ五輪が1年後に迫った。いだてんの映像のように、今日の東京は至る所で槌音が響いており、例えば渋谷では巨大ビルがにょきにょきと建ち並び、街が様変わりしつつある。まさにコンストラクション・ラプソディだ。のちに「渋谷って、高い建物が全然なかったんだ」と感慨にふける時が来るだろう。
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