ホテル需要が高まる中、相対的な新設コストの安さなどで伸長しているカプセルホテル。これに欠かせない要素がカプセルベッドだ。コトブキシーティング(株)(東京都千代田区神田駿河台1-2-1)は、39年前に世界で初めてカプセルベッドを作って以降、現在までカプセルベッド市場において圧倒的なシェアを占めている。同社の沿革やカプセルホテル業界の将来などについて、カプセル営業部部長の中村千明氏に話を聞いた。
―― カプセルベッド事業の沿革から。
中村 当社は「カプセルベッド」を世界で初めて作った。世界初のカプセルホテルは、1979年に大阪で開業した「カプセルホテル・イン大阪」だ。これは建築家の黒川紀章氏の「カプセルハウス」に着想を得たもので、カプセルのデザインも同氏が行った。そして実際の製作は、「太陽の塔」顔部分の製作などを手がけ、FRP製品にノウハウがあった当社が担当した。
これ以降、全国に広がったカプセルホテルの多くで、当社がカプセルの製造、納入、施工を行った。バブル期を経て需要は急増したが、その後バブル崩壊で市場の縮小が続いた時期もあった。それでも我々は事業を継続し、市場の再拡大もあり、現在は当社の柱の一つとなっている。
―― 需要が縮小した時期はどうでしたか。
中村 90年代には全国で500店程度あったカプセルホテルだが、その多くは個人事業者で規模が小さかった。そのためバブル崩壊で一気に市場が縮小し、一時期は200店を切るまでに至った。2007~08年ごろは毎月のように閉店の連絡が事業部に届くありさまで、事業の廃止を真剣に検討したこともある。しかし現社長の判断で続けるということになった。
―― カプセルホテル業界が好転したきっかけは。
中村 09年ごろに、「ナインアワーズ」や「ファーストキャビン」といった「新カプセルホテル」が開業したのがきっかけだと思う。これらのブランドは、従来カプセルホテルに付き物だった「狭い、汚い」といったマイナスイメージを覆すような施設で注目を集めた。
加えて、インバウンドの増加や女性客への訴求といった要素も追い風となった。カプセルホテルは海外にはない宿泊施設で、価格だけではなくその珍しさからも訪日客を集めている。また近年女性専用のフロアを設ける施設が出てきたことで、女性客という新しい客層が開拓され、女性専用のカプセルホテルも出現するに至っている。
―― 現在の状況について。
中村 今は非常に好調だ。ほぼ毎日のようにカプセルベッドについての問い合わせが来ている状況で、特にオフィスからカプセルホテルへコンバージョンしたいという相談が多い。加えて、ビジネスホテルにカプセルベッドを導入するという事例もある。面積だけで考えれば、ビジネスホテルなら15室程度のスペースに、カプセルベッドなら100床を設置できる。このようにカプセルベッドを導入するホテルは増えており、現在は300店程度、純粋なカプセルホテルなら250店程度に納入している。
またホテルだけではなく、オフィスやインフラ機関の仮眠用として、カプセルベッドを活用する例も増えてきている。正確な納入数は公表できないが、11~16年の5年間でカプセルベッドの出荷数は10倍になった。現在の国内カプセルベッド市場では、約8~9割を当社が占めていると思う。
―― カプセルホテル業界の現在とこれからをどのように見ていますか。
中村 比較的低コスト、短期間で新設できるカプセルホテルは、現在の不動産市況に合った業態だ。新規参入も増えてきており、我々のところにもカプセルホテルを開業したいから、運営業者を紹介してくれという相談がよく来ている。
また今後についても、訪日客の増加に牽引される形で需要は増え続けていくと思う。半ば希望的観測ではあるが、20年以降についてもLCCの増加で訪日客は増え続け、カプセルホテルも増えていくのではないか。
―― 競合と比べて強みは。
中村 何といっても40年近くカプセルベッドを作り続けてきた実績とノウハウ、そして施工・メンテナンス体制だ。またナインアワーズやファーストキャビンのような、カプセルベッドのオーダーメードにも対応している。最近は他との差別化を図るため、独自の注文も増えてきている状況だ。
―― 今後の目標などを。
中村 中期的な目標としては、定期的にカプセルベッドの新モデルを発売し、新しさをアピールしていきたい。またオフィスなどの仮眠室、学生寮への納入などカプセルベッドの需要をホテル以外にも広げ、事業の安定性を確保していく。
海外市場も大きな魅力だ。最近はフランスやシンガポールなど、海外でもカプセルホテルを新設する動きがある。世界各地から毎日のように問い合わせが来ている。
また、カプセルホテルのイメージ向上にも寄与していきたい。例えば軽井沢や銀座のような街では、まだカプセルホテルへの否定的イメージが強く、拒否反応が見られる。今のカプセルホテルの上質なイメージの認知を進め、こういった反応を変えていければと思う。
(聞き手・山田高裕記者)
※商業施設新聞2263号(2018年9月25日)(6面)