商業施設新聞
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No.677

逆境だらけの商業施設。その一方で……


高橋 直也

2018/10/16

 商業施設を巡る状況は、Eコマースの台頭、ショールーミング化、オーバーストアなど、逆境を挙げればきりがない。特にファッションを中心とした物販が厳しいと言われており、ショッピングセンター内における物販店の面積は縮小傾向にある。好調と言われているサービス系やホテルですら、オーバーストアは少しずつ進行している。例えばホテルは、エリアによって将来的に供給過多になると言われており、統廃合などが進むかもしれない。つまり、商業施設界は逆境だらけである。

 ところで「ピンチをチャンスに変える」という言葉があるように、この秋に開業した商業施設や、最近発表された施設を見ると、逆境に打ち勝つべく、面白い業態が出てきている。

日本橋高島屋S.C.新館に出店した「HummingBird Bookshelf」
日本橋高島屋S.C.新館に出店した「HummingBird Bookshelf」
 例えば、9月25日に開業した日本橋高島屋S.C.新館。5階にある「HummingBird Bookshelf」は業態としては本棚専門店なのだが、独創的なのは「本棚を本ごと販売すること」だ。店舗スタッフによると、「本棚がないと本を買っても置くところがなく、結果的に本を買わない。だから本を買ってもらうために本棚を販売する」そうだ。さらに、本棚を持っていない人はあまり本を読まない人が多い。そこで本棚ごとにテーマを決めて、オススメの本も一緒に販売しているという。テーマは「建築」「銀座」など様々であり、店員がセレクトする。さらに「環境などが整っていないと、本は読まない」というコンセプトから、机なども販売している。つまり、同店は「本を読む」というライフスタイルを販売しているわけだ。まだまだ新しい業態はあるものだと感心してしまった。

 一方、ホテルでも逆境に打ち勝つべく新たな業態が誕生する。星野リゾートは2019年2月5日に「日本の若者」へ向けたホテル「星野リゾート BEB軽井沢(ベブかるいざわ)」を開業することを発表した。"ルーズさ"を特徴にしており、ウッドデッキやラウンジなどの広いパブリックスペースを設け、ここでは楽器の演奏、飲食などもでき、気が向けばその場で寝てもかまわない。朝食も特に時間や場所を決めず、「食べたいときに食べたい場所で」という独特のスタイルで提供する。この業態を開発したきっかけは、若い層が旅行に行かないことだそうだ。将来のファンを形成するために、若者をターゲットに据えた業態を開発したという。実験的な意味合いが強いようだが、これまでにないタイプのホテルだろう。

 このほか、ショッピングセンターのゾーニングもこれまでにないものが増えている。日本橋高島屋S.C.新館の5階ではフロアの中心にスターバックスコーヒーを配置して、休憩しながら周辺の店も回遊できるようになっていた。デベロッパーや店舗開発者に話を聞いても、いかに競合に打ち勝つか、いかにネットに負けない店づくりをするかなど、厳しい環境だからこそ様々な研究をしている様子が伝わってくる。商業施設の運営は難しくなっているが、その裏では進化もしていきそうだ。
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