電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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スマホ3眼化で上方修正も


~まだ伸びる CMOSセンサー~

2018/9/7

 CMOSイメージセンサー市場が当初の想定を上回る成長を遂げそうな気配がここにきて強まっている。スマートフォン(スマホ)の出荷台数が伸び悩み始めたことで、今後の成長は車載カメラが左右すると考えていたが、直近では主要スマホ各社が「2眼化」に次いで「3眼化」を本格的に検討し始めた。これによって2021~22年には当初の想定を上回る市場を形成する可能性が高く、CMOSイメージセンサーは、DRAMやNANDといったメモリーに匹敵するような市場規模を持つ単独デバイスに育つかもしれないとまで考えている。

 まず、車載カメラ市場の見通しを説明する。当社の予測では、16年に5000万台を超えた車載カメラの出荷台数は、18年に8000万台に達するとみている。最初はリアビュー(視界補助)用に搭載が進んだが、今後はADAS(先進運転支援システム)用が需要増に拍車をかけ、20年には1億台、22年には1.4億台まで増加すると予測している。16~22年の年平均成長率(CAGR)は18.1%にも上る。

 この市場成長ペースは、過去に起こった携帯電話へのカメラの普及ペースと比較しても、決して弱いものではない。車載カメラ投入率(車体台数とカメラ台数の単純比較)の中期予測では、20年に100%(車体1台にカメラ1台)に達するとみている。このペースで普及が進むと、21年には携帯電話のカメラ普及率を超える(車体1台にカメラ複数台)可能性がある。

 この車載カメラ市場に加えて、近年注目していたのがマシンビジョン領域、なかでもマルチスペクトルカメラを活用する市場だ。マルチスペクトルカメラとは、可視光に加えて赤外線など複数の波長を捉えることができるカメラで、主な用途として食品検査、農業、ドローンが3大市場と考えられている。例えば、ドローンに搭載して大規模農場を空撮すると、作物の育成状況や水・肥料の過不足が視覚化できたり、検査工程で食品に混入した異物だけを判別できたりする。

 現在はまだ市場がほとんどないが、23年に100万台に達し、25年には400万台を超える見込みだ。18~25年のCAGRは170%を超えると予想される。ここに使われるイメージセンサーはSWIR(短波赤外)センサーと呼ばれるInGaAsをベースとしたもので、「人間の目には見えないものが見える第3のセンサー」として期待を集めている。

 車載やマシンビジョンといった有望市場に加え、冒頭に述べたように、スマホの3眼化が加速すれば、イメージセンサーの市場予測を改めて上方修正する必要が出てくる。直近の分析によると、主要スマホ各社の3眼化に対する意欲は以前よりも相当高い。少し前までは「スマホ向けイメージセンサーの伸びは鈍化していく」と考えていたが、以前にも増して「今後も注視すべき」という見方に変わってきている。

 ここで注目しておきたいのが、日本企業のポジショニングだ。例えば、SWIRセンサーは米フリアーシステムズや仏ソフラディール、イスラエルのSDCといったメーカーが知られているが、浜松ホトニクスはエリアセンサーやリニアセンサーなど全方位のラインアップを揃え、かなりシェア上位に位置している。SWIRセンサーはまだ高価なことが普及のネックだが、ソニーがシリコンセンサーとフィルターを組み合わせて安価に性能を実現しようとしている取り組みも興味深い。

 スマホや車載用のシリコンCMOSセンサーに関して言うと、トップ企業と中堅企業の実力差が大きくなり始めている点に注目している。例えば、金額ベースで市場シェア3位のオムニビジョンは近年、利益率が上がらなくなってきた。裏面照射や積層型でプロセスを差別化してきた上位企業に対し、ファンドリーに製造を委託しているため性能アップが図りづらくコストが下げられないのではと分析している。

 車載用では、金額シェア1位が米オン・セミコンダクター、2位がオムニビジョンだが、ソニーが開発したADAS前方センシングカメラ用の742万画素積層型CMOSイメージセンサーへの評価が高い。このセンサーの解像度は業界内で図抜けて高く、欧州自動車メーカーが高速走行時の自動運転向けにテスト中だといわれ、一気にシェアを巻き返す原動力になるかもしれない。

 日本のイメージセンサーメーカーは、その技術力で競合他社と差別化できており、きわめて良いポジションで今後の成長市場を戦おうとしているのだ。
(本稿は、李氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology 主席アナリスト 李根秀、お問い合わせは(E-Mail : KunSoo.Lee@ihsmarkit.com)まで。
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