電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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米中貿易交渉 いよいよ本格化へ


~半導体市場 18年下期の注目点~

2018/8/10

 中国が建国100年を迎える2049年に「米国を抜いて世界一の超大国になる」という野望を、米国は何としても阻止したい。

 確かに、ここ15年ほどでエレクトロニクス分野における中国の存在感は高まった。10年前は世界の電子機器の24%を製造するだけだったが、いまや40%超を生産し、製造分野で巨大な影響力を持つようになった。

 半導体分野では、特に設計力が飛躍的に向上した。AI対応のハイシリコン製プロセッサー「Kirin」や清華大学が開発したニューロチップ「Thinker」などはその代表例であり、パワー半導体も通信チップでも先進国との差を縮めている。そして今、メモリーの国産化に向かおうとしている。

 中国は、海外から年間20兆円以上購入している半導体を、国産化によって自国調達に切り替えようとしている。だが、米国は、これを米国から購入させることで中国の成長をできる限り遅らせ、経済や軍事への影響もできるだけ小さくしようとしている。30年前に日本に迫ったのと同様の圧力を、米国はこれから中国にかけていくはずだ。

 こうした貿易交渉は年内に活発化するとみている。果たして中国がどこまで受け入れるかは不透明だが、一定程度は受け入れざるを得ないはずだ。それを示したのがZTEへの販売禁止措置であり、中国も今すぐに米国から販売を止められると困ってしまうのが実態だからだ。

 すでに米国は、米国半導体企業の買収などに関して中国企業にノーを突き付けているが、今後は最先端の製造装置や電子材料も、中国企業に売らないよう、作らせないよう仕向けていく可能性が高い。技術ライセンス契約などにも容易にOKを出さなくなるだろう。

 仮に、米国が当面のあいだ中国に電子機器や半導体を多く買わせることに成功すると、米国の半導体企業、そして日本の半導体企業にも大きな恩恵がもたらされることになる。一方で、逆に厳しい立場に立たされるのが韓国。例えば、米国の圧力でマイクロンや東芝メモリからの購入量が増えれば、サムスンやSKハイニックスからの購入額は落ちる。米国から買収や提携を拒否された中国は、半導体の研究開発にさらに力を注ぐようになり、韓国の技術や人材に今よりもっと頼るようになる。もしそうなれば、韓国の半導体産業はシビアな状況に追い込まれることになる。

 そして、米国が中国の先に見据えているのが欧州、なかでもドイツだ。ドイツには自動車や半導体で米国のライバル企業が数多くあり、こうした企業はすでに中国市場に深く入り込んでいる。米国の中国に対する圧力は、ある意味でドイツへの牽制と捉えられる。

 こうした一連の貿易交渉に米国がどう動いていくかが18年下期の最重要ポイントと考えているが、その一方で、中国の財政の不健全なところがどこかで垣間見えてくるのではないかとも考えている。中国はかつてより外貨準備高を減らし、インフラにもこれ以上投資できない状況にある。今は表向きに財政不安が見えているわけではないが、「実態は火の車では」と見る向きもある。

 半導体の市況は、当初の想定よりもスローダウンしてきた。これまで中国ではバッテリー工場と電気自動車(EV)工場への投資が盛り上がり、これが産業機械の需要を押し上げてきたが、投資の一巡で一服感が強まってきた。自動運転の実現に向かう自動車市場にネガティブなサインはないものの、産機の需要減速が経済全体に波及しないかを注意深く見守っていく必要がある。増産が相次いでいるメモリーだが、供給量の増加によって、19年にはDRAMの価格が軟化してくることが予想される。

 さらに付け加えると、日本パワー半導体メーカーの先行きも気にしている。独インフィニオンが300mmウエハーによる量産を本格的に拡大し始めたからだ。300mm生産が本格化すれば、日本企業とコスト競争力に埋めがたい差が付いてしまう。300mmへの移行は確かに巨額の投資を伴うが、いま世界上位にいる日本企業がインフィニオンにどう対抗していく考えなのか注視している。
(本稿は、南川氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology 日本調査部ディレクター 南川明、お問い合わせは(E-Mail : Akira.Minamikawa@ihsmarkit.com)まで。
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