6月15日、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が施行された。フルサービスのホテルや旅館などとも違い、日本の住宅に宿泊できる“民泊”は、安くて日常生活の延長線として旅行を楽しめることで、新たな訪日観光客の需要を喚起するとともに、今後のさらなる観光客増加に伴う、宿泊施設不足の解消に寄与すると期待されている。
民泊新法は施行日の3カ月前、3月15日から物件の受け付けが各自治体で開始された。日本においては今春まで民泊サイトに約6万件が掲載されていると言われていたが、国土交通省(6月8日時点)によると、実際の届け出件数は約3000件と低調な推移となっている。要因としては、上限180日という営業日数の制限と営業地域などを制限した各自治体の上乗せ規制だと言われている。コンビニ業界や新たな仲介事業者の参入など、民泊サービス周辺は盛り上がりを見せているが、業界自体は様子見の段階にあると言えるだろう。
一方、民泊と同じ住宅を利用した宿泊施設でも、旅館業に基づく“簡易宿所”による許可施設が増えている。民泊新法と違い、営業日数の制限もなく、ビジネスとして成立しやすいのが魅力だ。特に、民泊に対する条例が厳しいと言われている京都市では、簡易宿所の許可施設数が増大しており、2018年3月までの簡易宿所の許可施設数は2291件で、15年度に比べて1595件も増加している。
筆者も京都市内で、古民家やマンションを改装して宿泊施設へ用途変更した物件を取材したことがある。特に古民家を改装した物件は、中に入るとまるで自宅に帰ってきたかのような安心感や、キッチンなども完備しているため長期滞在も可能なことが魅力的だった。
では、今後民泊はどうなっていくのか。思うに、営業日数も少なく、営業区域もかなり限られる「民泊新法」という形での届け出件数は、短期的には伸びないだろう。今回の法案の意義は、アメリカのエアビーアンドビーの共同創業者であるネイサン・ブレチャージク氏も述べたように、「民泊のルールの明確化」(『朝日新聞』18年6月15日付)であり、無許可営業の事業者を排除することにあるからだ。
今後、住民の不安感解消や制度の規制緩和が進めば、参入障壁が低くなり、届け出件数が増加に転じる可能性はあるだろう。
それでは、ホテル業界への影響はどうか。6月に、りそな総合研究所は17年の民泊市場の規模を1251億円と試算した。それによると、京都府が137億円、大阪府が264億円へ拡大することに比例して、ホテルの稼働率は大阪府が4ポイント、京都府が3ポイント減少しており、少なからずホテル業界に影響を与えているようだ。
しかし、興味深いデータもある。『日経MJ』(18年6月4日付)で、民泊を利用した訪日観光客140人にアンケートを取った。それによると、民泊を選んだ理由として、宿泊料金が安いよりも一般家庭の日常生活を体験したいという回答が多かったという。ホテル業界が民泊と差別化を図るためには、非日常性やラグジュアリー性を高めていく必要があると言えるだろう。
ただ、「民泊」という制度の誕生は、住宅を活用した宿泊施設という新たなビジネスチャンスを生み出したため、参画する事業者の裾野は広がっていくだろう。その反面、ホテル業界にダメージを与えていくかもしれない。