電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第290回

「重要なのは先頭に立ち先にある風景を見に行くこと、これがすべて」


~蘇るソニースピリッツ、半導体中心に1兆円の投資断行~

2018/6/22

 久方ぶりにソニースピリッツを吠えまくる男の講演を聞く機会に恵まれた。ソニー半導体を先頭に立ち引っ張ってきた上田康弘氏(執行役員コーポレートエグゼクティブ技術渉外担当)の熱い熱い講演を、JPCA Show 3日目の6月6日に聴講させていただいたのである。周知のようにソニー半導体は、世界シェア52%を持つCMOSイメージセンサー(人間の眼にあたる画像センサー)を黄金武器としており、この未来形を分かりやすく解説しておられた。

 「IoT時代を迎えているが、今の若者たちに常に呼びかけていることは、一緒に未来を作ろうということだ。どのようなIoTにおける課題もセンシングできなければ機能しない。人の眼を超えた画像センサーがIoTの進化をドライブする。これからは感情/心をいかにセンシングするかにかかっている」

 力強く熱い目線で聴衆を見渡し、こぶしを振り上げ、上田氏はこのようにとうとうと語ったのだ。実のところソニーは、CCDという画像センサーにこだわっていたために、かつてはCMOSイメージセンサーの量産には後れを取っていた。しかしながらスマホ、車載、そしてすべてのIoTに必要なデバイスはCMOSイメージセンサーしかない、との認識のもと、一気に経営資源を集中する投資を行い、この分野で王国を作り上げた。今や中国の山奥で買わない限り、世界すべてのスマホはソニーを使っている、と上田氏が豪語するほどなのだ。

 さて、ソニー半導体はCMOSイメージセンサーをメーンに据えて、2017年度は売上高8500億円を達成し、過去最高レベルとなった。前年度比で10%増を達成したのである。営業利益率は20%前後といわれており、ソニーの中でも稼ぎ頭の一角に座っている。ここ2~3年はスマホ向けのプレゼンスを向上していくが、2020年ごろになれば車載センサーが一気に伸びてくると判断しているのだ。

裏面照射型Time of Flight方式距離画像センサー
裏面照射型Time of Flight方式
距離画像センサー
 ソニーのCMOSイメージセンサーは車載向けという点で圧倒的な差別化を図っている。真っ暗闇に近い状態でも見える視認性と、150℃以上の温度にも耐えられる熱耐性を持っている。1億画素のセンサーもすでに作り上げており、DRAMを搭載することで処理速度を高め、1秒間に1000フレームも見られるという状態を作っている。シリコン基板側から光を入れるという裏面照射、さらにはDRAMまで搭載するという積層技術については他の追随を全く許さない。さらに言えば、最新タイプはISO 40万という考えられない超高感度センサーになっているのだ。

 レベル4以降の完全自動運転に移行すれば、従来使われているミリ波や赤外線レーダーに加えてCMOSイメージセンサーが不可欠になる。車載向けは1台に使われる数が多い。どんなに少なく見積もっても16カ所、完璧を目指すならば24カ所に設置しなければ車の周囲を完全にカバーすることはできない。自動車は今後年間1億台が生産されるわけだから、16億~24億個のCMOSイメージセンサーが必要になる。まさに次世代自動車の登場はソニーにすさまじい追い風をもたらすのだ。

 「半導体製造にAIを活用し、徹底的な生産計画の見直しを実行した。販売情報から生産計画に至るプロセスの誤差は全く少なくなった。生産効率は抜群に上がったのだ。そしてまた、半導体主力の熊本工場には1万点の設備があるが、ここにはすべて自社のCMOSイメージセンサーを取り付けて生産管理をしている。いわば、IoT時代における生産方式の先出しをやっている。重要なのは、先頭に立って先にある風景を見に行くこと、これがすべてなのだ」(上田氏)

 つまり、ソニーはかつてのようなフロンティアランナーとなり、IoT時代を先駆け生産工場の革新、次世代自動車の革新を世界に見せつけていこうというわけだ。それもあってか、ソニーは先ごろ今後3年間で半導体を中心に1兆円の投資を断行することを明らかにした。

 累計2兆円以上の営業キャッシュフローを3年以内に稼ぎ出す目標を掲げたが、このうち1兆円を設備投資に充当するというのだ。シリコンウエハーの生産能力でいえば、現在300mm換算で10万枚の能力を倍増の20万枚に上げていくというのだからすさまじい。半導体事業は2017年度に過去最高の1640億円の営業利益を計上したが、3年後も最大2000億円を計上する稼ぎ頭にする計画だ。

 これを達成する核弾頭は、いつにかかってまずはEV、燃料電池車をはじめとするエコカー、自動運転車、コネクテッドカーなどすべての次世代自動車向けにある。黄金武器であるCMOSイメージセンサーをガンガン搭載させる戦略を一気に推進していくことになるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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