国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「IHSディスプレイ産業フォーラム」で「モニター&デジタルサイネージ市場」を担当した上席アナリストの氷室英利氏は、先ごろオランダのアムステルダムで開催された世界最大規模のAVシステムインテグレーションの展示会「ISE(Integrated Systems Europe)2018」を視察した。ISEの状況や直近のサイネージ市場の動向を氷室氏に伺った。
―― ISEを視察されたご感想は。
氷室 延べ8万人が来場し、非常に盛況だった。来年の展示会場も予約でほぼ満杯だという。出展企業の顔ぶれを見ると、中国企業が国際舞台へ本格的に登場してきたという印象を持った。これまでは中国ローカル市場にとどまっていたが、世界展開を目指してサイネージ事業のパートナー探しを本格化している。19年はもっと露出が大きくなるだろう。特に中国LEDビデオウォールメーカーの台頭が思っていたよりも早いという印象だ。
―― サイネージ市場の全体像について。
氷室 LEDや液晶パネルを製造するデバイス&モジュールメーカー、これらをサイネージシステムに組み上げるシステムインテグレーター(SIer)、その先にいる設置会社やコンテンツ企業などがそれぞれに500社以上あり、カオス状態といえる。各社ともにソリューションを提供したがっているが、現場工事が不得意だったり、保守やセキュリティーが弱かったりと、すべてを1社でこなせる企業は少ない。1社でどこまで手がけるのか各社で戦略が分かれるところだが、今後さらに合従連衡が進むと思っている。
―― NECディスプレイソリューションズがドイツのLEDディスプレーSIerであるS quadrat社の買収を発表しました。
氷室 これも合従連衡の動きの1つだろう。NECの欧州部隊はもともと他の地域に比較してLEDサイネージ市場で先行しており、競合が多い日本よりも欧州でサプライチェーンを強化する考えだとみている。同様の話題が今後は中国からも出てくるのではないか。
―― LEDビデオウォール市場について。
氷室 米プラナーを買収したレアード、レアントロニクス、ユニルーミン、アブセン、ナノルーメンスが上位5社で、いずれも活力がある若い会社だ。LEDモジュールをタイリングして大画面を実現するため、組立や分解、調整がしやすいのが利点で、今後はファインピッチ実装による高精細化で付加価値を高めてくるだろう。
―― マイクロLEDやミニLEDが話題です。
氷室 ISEにもミニLEDの技術展示が数社からあったし、サムスンはマイクロLEDディスプレー「The Wall」やLEDシアターソリューションを発表している。確かに画質は素晴らしいが、マイクロ/ミニLEDはまだまだ高価で、価格を下げていかなければ普及しない。
―― 液晶パネルを用いたサイネージ市場は。
氷室 ハイクビジョン、Dahua、SEEWOが中国での3大メーカーだ。100インチ以下のサイネージ市場では液晶が圧倒的に強いが、今後はLEDサイネージと徐々に競合するようになる。サイネージ用途に特化したハーフハイトの液晶パネルの登場、4Kパネルの増加に伴う高解像度化などが話題だが、マイクロ/ミニLEDによる進化が期待されるLEDビデオウォールに比べて革新性が少ない。付加価値を今後どう付けていくかが課題だ。
一方で、IFP(Interactive Flat Panel=電子黒板)市場は活況だ。参入メーカーが増加し、教育用途に大きく広がりつつあり、今年はブームだといえる。テレビ用の液晶パネルを使うケースがほとんどだが、技術面ではFTIR方式のタッチ技術が大手メーカーに採用され、今後伸びていきそうだ。
(聞き手・編集長 津村明宏)