チュニジアは、地中海に面する北アフリカに位置する。その地理から欧州とのつながりが強く、古くからEU向けの輸出が盛んに行われてきた。また、EUや近隣諸国だけでなく、中東やサブサハラへのビジネスの足がかりの地としても注目を集めている。今回は、FIPA(外国投資振興庁)チュニジアの国際マーケティング ディレクターであるベリー・ベン・ソルタン氏と先端技術促進 ディレクターのアブデルバセット・ガンミ氏に話を伺った。
―― チュニジアの投資環境や概況などについてお聞かせください。
ベン・ソルタン チュニジアは現在、世界的にも安全な国といえる。2011年と14年には議会選挙を実施し、政治的にも安定している。今後、経済成長にも注力していく。17年の経済成長率は2.5%が見込まれているが、これを20年には4~5%へと拡大させたい。
また、EUとFTAを結ぶなど欧州との堅牢なつながりがあり、有利な条件で輸出が可能だ。現状、75~80%が欧州との商品取引となる。チュニジアの人口は1100万人規模で、国内市場だけを見れば小さな市場だが、欧州、アフリカ、中東への輸出を視野に入れると大きなポテンシャルを秘めている。EUとのFTAに加え、モロッコ、ヨルダン、エジプトとはアガディール協定を結んでいる。チュニジアは18年には東南部アフリカ市場共同体(COMESA)の加盟国となり、東南部アフリカへのアクセスが容易になる。これにより、チュニジアに直接投資することで、8億人以上の市場へと進出することができる。
―― 優秀な人材もそろっていますね。
ベン・ソルタン チュニジアは若年層が厚いことに加え、教育水準も高い。大学生は34万人以上おり、これは人口の3%を占めている。公用語はアラビア語だが、大半が2カ国語を話すことができる。フランス語、英語が主流だが、日本語を話せる者もいる。
ガンミ チュニジアはエレクトロニクスの分野が強いプレゼンスを持っている。特に自動車部品、航空宇宙、医療、バイオテクノロジー向けで強みを発揮している。チュニジアがエレクトロニクス・コンポーネント企業の誘致に成功したのは熟練した優秀な人材がいるからだ。
―― 税制やインセンティブの状況は。
ベン・ソルタン 外資系企業もチュニジア国内企業と同等の税制が適用される。また、多くの産業分野でインセンティブを受けることもできる。ローコストエコノミーから付加価値経済への転換を図っており、ハイテク分野への投資を優遇している。また、チュニジアは東部に主要産業が集中しており、西部地域とは経済発展に格差がある。このため、西部でのインフラ開発を進めており、ここにも優遇策がある。官民連携プロジェクトも進めており、日本企業にもビジネスチャンスになる。
―― インフラの整備状況は。
ベン・ソルタン 国際空港は9カ所あり、7カ所の重要港湾もある。高速道路の信頼性も高く、水や電力も安定して供給している。また、150以上の工業地区に工業団地も有している。クラスター化も進めている。インフラ基盤はチュニジアにとって良い資産となるため、日本企業の投資も歓迎したい。JIT(Just in Time)を実施している企業もあり、物流インフラは整っている。
―― 産業の状況は。
ガンミ チュニジアは魅力的な投資場所といえる。EU諸国の企業を中心に3500社がチュニジアでビジネスを展開する。そのうち2000社以上の企業がグローバルマーケットに向けてすべて輸出を行っている。製造業では、EU向けの輸出がトップ。対外直接投資の52%は欧州からのものだ。1970年代初頭は海外からの投資はテキスタイルが中心だったが、ドイツ企業の参入で、電子部品、自動車、航空宇宙の分野への投資が増加し、昨今はICTの分野でも直接投資がある。チュニジアの企業もアジア、中国などで地位を確立している。R&Dセンターをチュニジアに置いている企業も多く、開発段階から製造まで一貫して対応できる体制を採っている。日本企業もチュニジアを足がかりにして欧州、アフリカなどへグローバルに展開してほしい。
―― 日本企業の進出状況は。
ベン・ソルタン 矢崎総業、住友電気工業、YKKなど製造業では13社、その他数社の総合商社が進出しており、7300人を雇用している。チュニジアに進出している企業の中では、日本企業の割合はまだ低いので、チュニジアはビジネスをしやすい環境であるということをアピールしていきたい。これまでは欧州企業の誘致に注力してきたが、今後は日本企業の誘致も積極的に働きかけていく。
ガンミ いかなる企業の投資も歓迎するが、電子、自動車など技術的に高付加価値を有する企業を特に歓迎したい。
―― 日本企業を誘致するにあたってアピールする点は。
ベン・ソルタン チュニジアは安全であるということを強調したい。日本企業にはチュニジアを足がかりに、近隣諸国やEU、アフリカへ進出してもらいたい。今後、日本のチュニジア大使館や、日本貿易振興機構(ジェトロ)、国際協力機構(JICA)、中東協力センター(JCCME)などとも連携し、誘致活動を展開していきたい。
(聞き手・編集長 植田浩司)