「また大型店がひとつなくなった」。どこからともなく聞こえるその声は、誰かがつぶやいたのか、それとも自分自身の心がつぶやいたのか。7月31日に開かれた「堺北花田阪急」(堺市北区東浅香山町)の閉店セレモニーでの出来事である。閉店セレモニーには多くの人が訪れ、会場となった1階はもちろん、2階や3階も見物客であふれ返っていた。当初は20時のスタート予定だったが、買い物客がなかなか帰らないため、閉店セレモニーは15分遅れで始まった。
岩崎店長は最後の挨拶で「お客様には大変感謝している」と謝辞を述べたうえで、「2004年10月28日に開業して10年間、堺の地域を愛し、溶け込もうと働いてきたが、このような結果になってしまい、非常に残念だ」と涙ぐみながら心境を吐露した。
この堺北花田阪急は、営業面積1万6000m²の規模を誇り、07年度には過去最高となる売上高104億円を記録。その後も売上高は100億円前後で推移していたが、近隣に「ららぽーと和泉」や「イオンモール堺鉄砲町」が開業したことで、13年度に101億円、14年度に93億円と減少し、直近の16年度は81億円と、ピーク時の8割程度になってしまったことから、閉店を決めた。会場に蛍の光が流れ、シャッターが閉まる瞬間に立ち会うと、筆者も胸が張り裂けるような思いになった。幸いなことに、堺北花田阪急が閉店した跡地は、イオンモール(株)が一大リニューアルを行い、最新のライフスタイルを提案するゾーンとして生まれ変わる予定だ。
堺北花田阪急は跡地利用が決まっているので、まだ良いほうである。例えば、2月に閉店した「イトーヨーカドー六地蔵店」(京都府宇治市六地蔵奈良町)。地下1階地上6階建て延べ約1万3400m²の建物は、看板を外しただけで、放置されている状況だ。土地や建物を所有する(株)セブン&アイ・ホールディングスは、16年11月に商業施設や地域のニーズに即した複合施設の再開発を進める方針を打ち出しはしたが、今後の活用方法に関しては明らかにしていない。
それもそのはず。イトーヨーカドー六地蔵店の周辺には、ニトリやヤマダ電機なども出店する「イズミヤ六地蔵店」があり、「ホームセンターコーナン」「ジョーシン」「業務スーパー」といった専門店も数多く出店している。加えて、15年4月に住友商事(株)と住商アーバン開発(株)が商業施設「MOMOテラス」をオープンしており、この六地蔵エリアでは、店舗や商業施設はオーバーストア状態だ。さらに商業施設を作るのであれば、何らかの特色を打ち出す必要がある。
筆者が担当する関西エリアでは、10年ごろから小売業界を中心に、オーバーストア状態が囁かれていた。それでも、11年に「LUCUA」や「あべのキューズモール」、12年に「阪急うめだ本店(建て替え)」、13年に「グランフロント大阪 ショップ&レストラン」が開業し、14年には「あべのハルカス近鉄本店」がグランドオープン。その後も、「イオンモール京都桂川」「もりのみやキューズモールBASE」「エキスポシティ」などが相次いで開業し、これらが関西エリアの景気拡大に弾みをつけた。
これらの商業施設が開業して、ひとつも閉店していない状況を踏まえると、関西エリアはまだオーバーストアではないと錯覚してしまう。むしろ、オーバーストアと思われるのは、前述の六地蔵エリアのように、ごく一部に限られた地域である。現に、三井不動産やセブン&アイ・ホールディングスは、大阪府内で大型ショッピングセンターの建設計画を進めている。まだまだ関西エリアには潜在的なニーズはあると言え、今後もデベロッパー各社の開発熱が高まることを願ってやまない。