近年、商業施設で売り上げを伸ばしている品目と言えば、何といっても生鮮食料品だ。しかしこの生鮮品のうち、青果・精肉の伸びに比べて鮮魚・水産品の伸びは今一つにとどまっている。それもそのはず、日本人の水産物消費量と、日本の漁獲量は年々減り続けているのだ。
農林水産省が発行する「水産白書」のデータでは、日本人の1人当たりの年間水産物消費量は、2001年度の40.2kgをピークとして以降減り続けており、14年度には27.3kgまで減少した。年間漁獲量に至っては、ピークとなる1984年の1282万tから、2014年には479万tと、実に40%以下にまで落ち込んでしまった。
では、このように消費量・漁獲量がともに減り続けているのは何故か。答えの1つが、日本人のライフスタイルの変化による肉類消費量の増加だ。先の「水産白書」によると、01年以降、水産物消費量が減り続ける一方で、肉類消費量は増え続け、11年度には1人当たり年間消費量について、初めて肉が魚を上回った。
だが、もう1つ重要な点がある。それは、漁業資源自体の減少、枯渇という問題だ。農林水産省の統計によると、80年代の数百万tから10分の1以下に減少したマイワシをはじめ、サンマなどの大衆魚からマグロやウナギなどの高級魚まで、幅広い魚種でこの問題が顕在化しており、マグロに至っては国際的な漁獲規制が設けられ、ウナギについても養殖に使う稚魚の漁獲規制が俎上に載っている。
こういった魚はいずれも日本人には馴染みの深いもので、それだけに食卓に与える影響は深刻だ。この状況に対応するため、各社・各店舗は仕入れルートの多様化に加え、新たな水産資源の開発にも力を入れている。農林水産省は以前から、既存の食用魚に似た味で現在あまり利用されていない「代用魚」の開発・普及を進めていたが、現在は各社・各店舗がその動きをさらに加速させている。
イオングループが売り出した
「白身魚のふっくら蒲焼」
そんな中、5月30日にイオングループが「土用の丑の日」用の商材として、ベトナム産の養殖ナマズ「パンガシウス」を使用した「トップバリュ 白身魚のふっくら蒲焼」を売り出した。パンガシウスは以前からヨーロッパなどでは広く利用されてきた魚で、イオングループでは14年に取り扱いを始めて以降、その量を増やしつつある。
身は白身でクセがなく、既存の白身魚の代替品として活用できる十分なポテンシャルを持っている。また、養殖方法については国際的に評価されているASC認証を取得しており、環境に優しく持続可能な養殖が可能だ。今回、蒲焼として提供するにあたって、オリーブオイルで焼き上げるなど独自の加工を施した。味についてはウナギの蒲焼とは多少異なるが、十分に蒲焼らしさを楽しめる味だと思う。価格面についても、1パック598円と非常に安価で、イオンはパンガシウスの蒲焼をウナギと併売し、「土用の丑の日」の蒲焼需要に応えていくとしている。
このような代用魚の普及は今後も急速に進んでいくと予想されており、鮮魚コーナーに並ぶ切り身の多くが実は代用魚、という未来も十分にありうる。従来の魚に対する需要がなくなることはないだろうが、漁業資源が減少していく中、鮮魚店における代用魚の重要性はますます高まっていくだろう。