シービーアールイー(株)(CBRE、東京都千代田区丸の内2-1-1、Tel.03-5288-9288)は、国内および外資系企業を対象とした事業用不動産サービス、不動産マーケットに関するリサーチなどを手がけており、ホテルや物流施設、小売り、オフィスビルなど幅広い分野で事業を展開している。その中でも昨今、特に盛り上がりを見せる日本国内のホテルマーケットは、政府が掲げる2020年に4000万人、30年に6000万人という訪日外国人客(インバウンド)の獲得に向けて、ますます広がっていく傾向にあり、17~18年度に開業はピークを迎える。これからの展望など今後の業界動向を、CBRE Hotelsシニアディレクターの吉山直樹氏に聞いた。
―― 16年度のホテル業界を分析すると。
吉山 インバウンド客数の増加とともに、ホテルの開発も活発化し、16年度は多くのホテルが開業した。ホテル業界は今、最もホットな不動産マーケットの一つと言ってもいいだろう。16年度は業界にとって「転換期」であったと思う。前半の5月ごろまでは、前年度(15年度)のムードのまま各社に勢いがあり、投資売買も活発化していた。だが5月以降、下半期は少なからず悪い流れができてしまった。
その要因は、(1)日本人の宿泊需要減退、(2)インバウンドの宿泊者があまり伸びなかったことなどが挙げられる。(1)は、宿泊料金がいわゆるインバウンド価格で高騰し、例えば出張ニーズなどが減少したことなどがあるだろう。インバウンドが増加したとしても、国内のホテルマーケットは日本人客が約8割を占めるため、ここが減少したことによる影響は十分考えられる。(2)は、インバウンド客数は前年比で2割増加したが、宿泊客数は1割しか伸びなかったことなどが影響したと思う。つまり、日本を訪れる外国人は増えたものの、ホテルや旅館などを利用した人は思ったより伸びなかったということだ。
―― インバウンドの宿泊ニーズはどこに流れたか。
吉山 ホステルや民泊といった、ホテルに比べて比較的安価で宿泊できる施設数の増加の影響は大きい。また、クルーズツアーなどが充実してきたことも少なからず関係している。
―― 17年度以降の業界動向は。
吉山 17年度前半は、料金も含めた調整局面に入り、稼働率を重視したマネジメント方法を取るだろう。前半はこうした流れになるが、後半も楽観視はできない。料金と稼働率のバランスをうまく取った運営に各社舵を切っていく。
―― 開発については。
吉山 すでに各デベロッパーは、ホテル開発用地取得のピークは過ぎ、17~18年度に開業ラッシュを迎える。20年に向けてという意味では、17~18年度にオープンするホテルが固まっており、これから施設数、客室数ともに一気に増加していくだろう。エリアとしては、沖縄は別格として東京、大阪、京都、名古屋などの都市圏を中心としたところが多くなってくる。今後、東京都では約2万室、大阪市では1万3000室といった大規模な新規供給が計画されている。これはもちろん外部環境も影響してくるが、東京、大阪市ともに現在の客室数の約2~3割増に当たる。都内では皇居の東側の銀座エリアや千代田区、港区での開発が多くなっている。
―― 近年は外資系ホテルの進出も活発です。
吉山 外資系ホテルは立地の選定が非常に厳しい。したがって、計画されているものはいずれも良いロケーションのものばかりだ。また、外資系ホテルは、自分たちで需要を誘発できるという強みも持っていて、例えば北海道・ニセコが良い例だろう。インターナショナルホテルをつくることで、そこを訪れる人たちを増やし、結果的にリピーターとして顧客を獲得している。
―― 今後のホテル業界のトピックスは。
吉山 前述したように、ホステルや民泊といったホテル業界以外のプレイヤーがシェアを伸ばしてくる可能性がある。特に民泊は今、飛躍的に成長しており、ホテルにとって脅威となるだろう。ホテル同様、都内だけでなく大阪などでも民泊は確実に増加しており、利用者も増えている。ホテル業界全体としては転換期を迎え、14~15年度に土地の取得など種を撒いたホテルの開業がピーク期に突入する。運営は料金と稼働率をバランスよく保ったマネジメントとなるなど、各社の取り組みが注目される。
(聞き手・若山智令記者)
※商業施設新聞2189号(2017年4月18日)(7面)
インバウンド4000万人時代 ホテル最前線 キーパーソンに聞く No.6