電気自動車(EV)の製造・販売を行うアメリカの自動車メーカー、テスラモーターズ(本社=米カリフォルニア州パロアルト)は9月28日、「テスラ デザインスタジオ」を東京・有楽町の「阪急メンズ東京」にオープンした。「車販売×デパート」という画期的な試みで、EVをより身近なものとして感じてもらうのが狙い。都内で2店目、全国では4店目となる店舗で、今後も直営店を増やしていく計画だ。世界のEV市場を牽引するテスラの日本国内での展開について、テスラモーターズジャパン合同会社(東京都港区南青山2-23-8)の代表取締役社長 ニコラ・ヴィレジェ氏にお話を伺った。
―― 同店の概要を。
ヴィレジェ 「阪急メンズ東京」(東京都千代田区有楽町2-5-1)地下1階にオープンした。店舗面積は5坪でテスラとして世界最小の店舗だ。車の購入を検討する際に車販売店に行くという従来の方法ではなく、デパートで洋服や化粧品を購入するように、EVに触れて欲しいとの想いから、この新しい購入スタイルを提案している。周辺はアパレル、靴、バッグ、カフェなどで、ショッピングの一環で、ブランドを体感できる。店舗では電気自動車の仕組みや、充電、電気自動車に関わる補助金や税制などを説明するほか、購入後のランニングコストの相談なども行う。
まずは乗って体感してもらい、デザインの良さ、モーター、加速の良さといったテスラの長所を体験して欲しい。そのため、「モデルS」や発売されたばかりの「モデルX」の試乗が可能で、晴海通りや銀座通りを走ることもできる。乗ってもらうことを目的にしているので、あえて車の展示は行っていないが、阪急百貨店協力のもと、年数回、展示イベントを行い、セミナーや勉強会などのイベントも考えている。
―― ご自身の経歴も自動車メーカーでは異色ですね。
ヴィレジェ 2016年の1月に就任したが、前職ではコーチアジアの代表取締役、コーチ以前はロンシャンジャパンの代表取締役、エスティーローダーとマックブランドのジェネラルマネージャーを務め、日本の百貨店に鍛えてもらった。
多くのケースで、輸入車は、ディーラーシップで販売しているが、ディーラーでの販売は売りやすい車から売れてしまうため、新しい技術やブランドは直販が最適だと考えている。この流通戦略はファッションブランドと共通する点があるので、ファッションブランドでリテールの経験のある自身の経歴が評価され、当社にジョインした。
―― 百貨店を選んだのは。
阪急メンズ東京にオープンした
テスラデザインスタジオ
ヴィレジェ 顧客との接点を増やし、より身近に感じてもらいタッチポイントを増やすのが狙いだ。同店以外は単独の直営店で、大阪・心斎橋、青山にブティック、横浜の戸塚にサービスセンターを展開しているが、ショールームはテスラのことをすでにご存知の方がいらっしゃり、百貨店内の店舗はテスラをご存知ない方に知っていただく機会となる。これまでEVに接点のなかった人に訴求し、EVに興味を持ってもらうための「情報発信拠点」の役割を担う。
また、百貨店は身近なショッピング空間だ。高品質で新しいモノが揃っている信頼性も高い。洋服や靴の試着をするように、ブランドを体感できるようになったことの意味は非常に大きい。
―― 充電設備が必須です。
ヴィレジェ そのとおり。EVは店舗だけでは販売につながらない。インフラ整備が必須だ。日本は国を挙げてインフラ整備を行っており、他国より進んでいる。一般の急速充電器は7000カ所あり、テスラもアダプターやコネクターを使って対応することができる。テスラ専用では、超急速充電器のスーパーチャージャーが現在12カ所、ホテルや旅館などにデスティネーションチャージャーが60カ所整備されている。
インフラの拡張はお客様が増え続ける限り必須の案件で、これからも積極的に行う。テスラ専用充電設備は今年は年内さらに1カ所増設し、17年は合計100カ所を目指す。お客様から「充電は大丈夫ですか」という質問もよくいただくので、ここで正しい情報を伝えていけたらと思っている。また、1時間に85km充電できるデスティネーションチャージャーは数時間滞在する施設に設置するのが最適で、百貨店や商業施設などに設置していきたい。
―― 韓国も統括されています。
ヴィレジェ 韓国のリテールは日本と非常に似ている。韓国では新世界とパートナーシップを結んでいる。百貨店、アウトレットなどを運営し、スターバックスのライセンスも持っている。
なお、9月に開業した韓国最大のショッピングモール「新世界河南」に今冬にオープンする。周辺にはマイケルコース、アルマーニといった高級ブランドが並び、こういったブランドとともにEVを提案できる。65坪で、商談スペースもあり、展示も3台行える理想的な店舗だ。併せて、充電設備も新世界グループで25カ所作る予定だ。今後もリテールとインフラ整備を同時に進めていく。
―― 今後の展開を。
ヴィレジェ 17年中に横浜と名古屋にブティック形式で開設する。東京、神奈川、愛知、大阪で輸入車市場のシェアは半分以上にのぼり、ここは重要な市場となる。
さらに、福岡や札幌といった新しい街にも出していきたい。地方都市で安定した集客があるのは駅前百貨店であるため、特に地方都市では、独立店よりも百貨店と組むのが面白い。今回は最小面積でのオープンとなったが、地方は35坪あれば商談、展示スペースも設置できる。必須なのは試乗車を置ける駐車スペースで、良い場所であれば面積を絞ってもいいと思っている。地方都市で15カ所程度展開できればと考えている。また、韓国の新世界のような大型店を日本の商業施設でも開設したい。
(聞き手・大塚麻衣子記者)
※商業施設新聞2171号(2016年12月6日)(5面)