手作りクッキー専門店「ステラおばさんのクッキー」を全国に67店展開する(株)アントステラ(東京都渋谷区渋谷3-3-5、Tel.0120-014-991)は、「クッキーバイキング」「クッキー詰め放題」といった楽しく、新しい仕掛けで話題を呼んでいる。特に、クッキーバイキングは長蛇の列が生まれ、店舗が活気づいている。この“コトも楽しめる”新しい仕掛けが功を奏し、格段にブランドの認知度が上がり、この数年店舗数も純増しているという。同社の戦略について、代表取締役社長の吉川洋一氏にお話を伺った。
―― 概要から。
吉川 店名にも冠する「ステラおばさん」は、クッキーをはじめとした焼き菓子の名人で、彼女のレシピを元に、良質な素材を厳選し、伝統の製法で焼き上げるアメリカンクッキーの専門店だ。当店では、生地作り・焼成・包装・出荷などをほぼ手作業で行っている。店頭には200種類におよぶレシピから選んだ、定番から季節の商品など約20種類のバラエティ豊富なクッキーが並ぶ。また、クッキー1枚から購入できるのも特徴だ。
ここ最近、新しい販売方法や新業態「クッキーバイキングカフェ」の投入などでメディアに取り上げられることが多く、注目が集まっているが、1号店のオープンは1982年で、約35年の歴史を有する。全国主要都市の駅ビル、百貨店、SC、ファッションビルなど多様な立地で展開を進めてきた。ただ急速な事業展開で不採算店が増え、2008年に森永製菓(株)傘下に入り、さらなる事業の強化とブランド価値の向上を図ってきた。
―― 店舗形態について。
吉川 ショーケースにクッキーを並べ対面で販売する形式をとっていたが、11年から新しい販売方法「Pick&Mix」を導入している。新什器となるアイランド型のショーケースからセルフで好みのクッキーを選ぶ仕組みで、従来の対面販売に比べ、より買いやすく、入店しやすい環境が整った。また、クッキーを選ぶ楽しさ、わくわく感も感じることができると好調だ。現在は(1)対面販売型、(2)対面販売+喫茶併設型、(3)Pick&Mix、(4)Pick&Mix+喫茶併設型の4形態で展開している。新フォーマットの場合10~17坪くらいが必要となるため、面積の関係などから「Pick&Mix」方式を全店に導入するのは難しいが、今後出す新店は「Pick&Mix」方式を導入するつもりだ。改装などのタイミングで刷新していきたい。
―― 新しい取り組みが話題を呼びました。
吉川 当ブランドの特徴は手作りの美味しさ、温かさに加え、“甘い匂い”で、この匂いが五感に働きかける集客装置になり、ブランドは広がっていった。現在は、洋菓子も多様化し、香りを味わえる洋菓子専門店も珍しくなくなり、埋没してしまったきらいもあった。Pick&Mixをはじめ、時間制でクッキー食べ放題の「クッキーバイキングカフェ」、9日のクッキーの日に開催する「クッキー詰め放題」など、モノ売りにコトをプラスした仕掛けで、来店喚起を促し、新しい顧客層の開拓につなげた。「食」「コト提案」を強化したい館が多いので、ありがたいことに引き合いも増えている。
―― ターゲットは。
吉川 ギフト需要もあるので、老若男女幅広い年齢層からの利用がある。いわゆるF1層、20~30代の女性をターゲットにしているが、歴史を重ねるのに伴い、年齢層も上にシフトしていた。こういった新しい取り組みが、ブランドの再認知を深め、これまでブランドを知らなかった人やF1層の来店を促すとともに、かつて利用して頂いたお客様の再来店につながっている。
―― 喫茶併設店について。
吉川 喫茶では、飲み物をオーダーすると無料でクッキーが1~2枚ついてくる。この取り組みは他のコーヒー専門店にはなく、当社ならではのものだ。しかし、この付加価値があまり認知されていない。このサービスはクッキーの美味しさ、ブランドを知っていただくいい機会なので、もっとアピールしていきたい。もちろん喫茶併設業態も出店を進めていきたい。
―― 立地について。
吉川 直営で63店展開しているが、東日本が7割を占める。駅ビル、百貨店、SC、ファッションビルなど様々なチャネルに出店している。集客力のある商業施設内を基準にするが、都心部、郊外などの立地にはこだわっていない。これまでどおり多様なエリアで展開していきたい。
―― 今後の展開を。
吉川 15年度は8店出店、退店4店の純増4店で、16年度はすでに6店をオープンしている。この数年で店舗は純増しており、会社の体質も筋肉質に変わったと思う。出店を加速すれば売り上げが伸びることは明白だが、無理な出店はしない。急拡大するとどうしても1店ずつのクオリティが下がってしまうためだ。ファンを大切に、これまでのペースを保ちながら出店を進めていきたい。
また、近年仕掛けてきた「コト売り」を発信する取り組みも深化させる。今、新たなサービスを構想しているところだ。当社の情熱や商品を知っていただくには、新店ももちろんだが、ブランドを訴求する新しい取り組みが常に必要になる。時代に即した新しい店舗形態で認知度や来店喚起を高めていきたい。
(聞き手・大塚麻衣子記者)
※商業施設新聞2157号(2016年8月30日)(5面)
商業施設の元気テナント No.200