電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

部材市場「対中国戦略が重要に」


~「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」開催(3)~

2016/7/1

上席アナリスト 宇野匡氏
上席アナリスト 宇野匡氏
 大手調査会社のIHSは、7月27~28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに全5回にわたって聞く。第3回は「FPD部材市場」を担当する上席アナリストの宇野匡氏に主要テーマを伺った。

 ―― FPD市場では有機ELが大きな注目を集めています。部材市場にも影響が出そうですね。
 宇野 確かに、有機ELへのシフトが確定すれば、液晶用部材のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすだろう。アップルが有機ELを採用する場合、焼き付きや発光材料の寿命の問題が指摘されている。フレキシブル有機ELの課題も多い。高精細の低温ポリシリコン(LTPS)は、アップルが資金を拠出したことで生産能力が一気に増えたが、有機ELでも同様の流れが起きるには、アップルがさらなる量産資金を拠出したくなるほど良質な有機ELのサンプルパネルが登場するのを待たねばならない。

 ―― LTPS復権の可能性もあるわけですね。
 宇野 復権とは言わないが、LTPSの可能性が広がりつつあるのは事実だ。まず、中型ではノートPC向けに需要が立ち上がりそうだ。最初はパネルメーカーがセットメーカーに提案していたが、セットメーカー側がパネルメーカーに高精細パネルの供給を求める需要側の側面もある。
 また、バーチャルリアリティー(VR)機器の登場で、止まっていたLTPSの高解像度化に加速がつくかもしれない。ドライバーICの発熱問題などで解像度はWQHDで止まっていたが、スマートフォン(スマホ)をセットするドロップイン型VRが普及すれば、ユーザーは4Kでも満足しないと言われており、スマホの高解像度化を促進する可能性が指摘され始めている。

 ―― ただ、部材市場に目を移すと液晶向けは厳しい市況にありますね。
 宇野 そのとおりだ。液晶パネルに過剰感があるのと同様、部材の需給バランスにも緩さが目立つ。
 加えて、中国政府の積極的な支援によって、中国ローカルメーカーが徐々に育ってきた。高い関税による自国メーカーの保護、地方政府によるイニシャル投資への補助、国産部材を購入した自国パネルメーカーへの補助が効いている。補助金が受けられることを考慮し、実際には製造に使わないのにローカル部材を購入しているケースさえあると聞く。

 ―― 中国ローカル部材メーカーのシェアは上がっていますか。
 宇野 バックライトのように人海戦術が利く市場は中国勢がすでに優位だが、一例として、ガラス基板ではまだ数%のシェアしかない。中国のガラス基板メーカーは2009年から量産を開始したが、いまだに5G/6Gのカラーフィルター(CF)用に採用されるにとどまっており、日米メーカーとは性能や品質に歴然とした差がある。
 中国のガラス基板メーカーとしてはイリコと東旭が著名だが、保有している溶解窯と出荷量を精査すると、稼働率は半分にも満たない。歩留まりを考慮しても明らかに赤字操業だが、倒産することなく8Gへの投資を進めている。補助金の効果と思わざるを得ない。

 ―― 市場で競争する根本的な土台が違いますね。
 宇野 確かにそうだが、偏光板における様々な樹脂、CFにおけるカラーレジスト・ブラック材料のように「素材の素材」に関しては日本メーカーが圧倒的に強い。10年程度では中国勢に逆転を許さない。
 中国政府は3月でLEDへの補助金を打ち切った。つまり、政府として自国のLEDメーカーの育成は完了したという認識なのだろう。これにより早速、中国国内でLEDメーカーの淘汰が始まっている。FPD業界への補助が終わるのはまだ先だろうが、であればこそ日系部材メーカーにとって、対中国マネジメントがますます重要な課題になってくる。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
http://www.cvent.com/events/31st-ihs-display-japan-forum/event-summary-9f97d28cf3a54a92a143df2f3670badc.aspx?Refid=IHSSITE
サイト内検索