電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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中小型パネル「サバイバルが本格化」


~「第30回IHSディスプレイ産業フォーラム」開催(2)~

2015/12/11

シニアディレクター 早瀬宏氏
シニアディレクター 早瀬宏氏
 大手調査会社のIHSは、2016年1月27日、28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに全6回にわたって聞く。第2回は中小型FPD&アプリケーション市場」を担当するシニアディレクターの早瀬宏氏に主要テーマを伺った。

◇  ◇  ◇

―― スマートフォン(スマホ)とそのパネル市場をどう見ていますか。
 早瀬 明らかに偏りが大きくなっている。台数ベースの成長が鈍化しているのは致し方ないが、端末の付加価値を上げて価格を維持できているのはアップルとサムスンだけで、中国ブランドはハイエンドモデルでも両社に対抗できず、結果的に値下げ競争による「利益なき繁忙」に突入している。コモディティー化の進展が想定以上に早い。今ならスマホよりもフィーチャーフォンのほうが利益を出しやすいのでは、と思えるほどだ。
 これに伴い、パネルメーカーの収益にも偏りが顕著に出ている。有機ELで差別化できているサムスンディスプレー(SDC)、インセルタッチ技術Pixel Eyesの比率を向上させているジャパンディスプレイ(JDI)は業績が好転しているが、他のメーカーは苦戦続きだ。単に高解像というだけではもはや価格の下落圧力を押しとどめることができず、プラスアルファの付加価値を提供できないパネルメーカーは、どこで利益を上げればよいのか、という状況に追い込まれている。

―― SDCが有機ELを積極的に外販しています。
 早瀬 有機ELの付加価値が端末やパネル価格の維持につながっているのは事実だが、外販しすぎると自分の首を絞めることにもなりかねない。あくまでサムスングループの内需を満たしたうえで余剰分を外販するのみで、供給量が限られるし、1社供給ではロットの大きい主要モデルには採用しづらい。中国のエバーディスプレイがスマホ用パネルの事業化に積極的だが、セカンドベンダーになりうるのはまだ相当先だ。

―― 中国の天馬微電子が低温ポリシリコン(LTPS)の供給を始めたが。
 早瀬 LTPSの先行3社に比べるとグレードがまだ低く、現状で競合するのはスマホ用アモルファスシリコン(a-Si)だ。スマホ用ではa―Siの需要が消滅していくため、ここを主戦場にしていたa-Siメーカーはかなり過酷な再編を強いられる。すでに実例が出始めているが、中小型a-Siラインの資産が多い台湾パネルメーカーが厳しくなるだろう。

―― 16年のスマホ用パネル市場の見通しは。
 早瀬 台数ベースで数%、金額ベースでは若干のプラスになるとみている。付加価値のあるLTPSと有機ELが伸び、a―Siが駆逐される。サイズ感としては4インチ台前半、4.7~5インチ強、5.5インチ+アルファで市場が形成され、限られた利益はSDCやLG、JDIなど先行メーカーが分け合うという構図になる。サバイバル競争が本格化する年だ。付け加えるなら、アップルの出方が市場に与える影響がより大きくなるだろう。


―― 具体的には。
 早瀬 iPhone7に搭載するパネルが4Kになるのか、ディスプレー周辺でどのような新技術を搭載してくるのか、現時点では結論が出ていないだろうが、これがスマホ用パネル市場の伸びしろを大きく左右する。「7」でパネルの仕様を大きく変更するなら「6S」はそれほど多く生産しないだろうという想定もでき、これがパネル需給の調整にも影響するだろう。

―― 中小型では車載用も注目市場ですね。
 早瀬 新型プリウスを例に見るように、クラスターへのTFT搭載率が予想以上に上昇しており好調だ。ナビ系などのセンターインフォメーションディスプレーは7~8インチが標準となり、台湾メーカーの参入などで価格競争が厳しいが、クラスター系は自動車メーカーごとにデザインが異なり、サイズや組み合わせが多様化している。コスト削減も大事だが、為替の変動リスクをどうヘッジするかが重要になっている。

―― 車載パネルメーカーのシェアに変化は。
 早瀬 中堅パネルメーカーの新規参入などで、むしろ分散化していく流れだとみている。あまりにパネルメーカーが提案力を強めると、Tier1各社とバッティングする可能性があり、これをTier1は快く思わない。今後はクルマ、Tier1、パネルメーカーで系列化が進み、パートナーシップや指定サプライヤーといった色分けがなされる可能性もある。

―― 新市場としてウエアラブル機器が期待されていますが。
 早瀬 搭載されるパネルの面積が小さく、過度な期待は持てない。ただし、身に着けるという仕様を満たすため、肌触りや耐久性といった作り込みが求められる市場であり、そうした意味での新技術の芽が出てくる可能性はある。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
https://technology.ihs.com/events/552152/30th-ihs-display-japan-forum
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