電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

「中国インパクト」ついに本格化


~「第30回IHSディスプレイ産業フォーラム」開催(1)~

2015/11/27

シニアディレクター 田村喜男氏
シニアディレクター 田村喜男氏
 大手調査会社のIHSは、2016年1月27日、28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに全6回にわたって聞く。第1回は「FPD市場総論」を担当するシニアディレクターの田村喜男氏に主要テーマを伺った。

◇  ◇  ◇

―― 2015年のFPD市場を端的に言うと。
 田村 テレビ用大型パネルの供給過剰が顕在化した年になった。テレビ各社の生産計画は年初から強気で、積極的なパネル調達を実施した。しかし、通貨安の影響により春先から新興国で、テレビなど各種製品は総じて値上がりしてセット需要が低迷し始めた。パネルの面積成長率は、結果として年初の見通しから数%下ぶれしたかたちになった。中国経済の低迷よりも、このドル独歩高のインパクトの方が大きいと考えている。
 だが、パネル各社は高い稼働率を維持し、パネル単価の下落を招きながらも、シェア維持のために、生産にブレーキを掛けなかった。15年10月ごろまで高い稼働率を維持し続けてしまった。

―― テレビ用・IT用大型パネルの供給過剰率は。
 田村 パネル需給がタイトだった14年は10%だったが、15年は12%まで高まっている。16年には14%まで上昇し、少なくとも16年上期中は調整期間になる。16年下期は一時的に過剰感が和らぐが、17年も13%の過剰感が見込まれる。需給にバランス感を感じられるようになるのは、17年半ば以降だろう。

―― パネル各社の収益が悪化しそうですね。
 田村 主要パネルメーカーの営業利益率は、15年4~6月期が平均8%だったが、7~9月期は3%、10~12月期はブレークイーブンにまで落ち込むとみている。16年もドル高傾向が続くと、需要環境はすぐには好転しない。16年は赤字を余儀なくされそうだ。

―― 厳しい市況が予測されるなか、注視すべきポイントとは。
 田村 大型パネルに関しては(1)中国パネルメーカーの生産調整、(2)台湾パネルメーカーへの影響、(3)5Gラインの再編だ。
 (1)について、中国最大のパネルメーカーであるBOEが大型パネルの量産を軌道に乗せたのが12年。以降は需給環境が良かったため、中国パネルメーカーはこれまで増産一本槍で事業を拡大できた。つまり、これから初めて本格的な調整期を経験することになるのだが、果たして生産のブレーキをいつ踏むのか未知数だ。イニシャルコストやインフラコストなど政府からの援助に関して、他国のパネルメーカーと競争の土台が異なるため、なかなか調整に入らないようだと、それだけ他のパネルメーカーに与える影響が大きくなる。

―― これが(2)につながるわけですね。
 田村 そのとおりだ。大きな内需がなく、中国のテレビメーカーを主要顧客としてきた台湾パネルメーカーがまず大きな影響を受ける。中国政府の方針は「自国で生産するテレビの8割に国産パネルを搭載する」こと。内需がなく、中国国内にテレビ用パネル工場を持っていない台湾パネルメーカーは、大口顧客を失うことになりかねない。4Kで差別化できている今はいいが、先行きは厳しい。台湾メーカーにも中国でテレビ用パネル工場を新設する計画が浮上しているが、これが稼働する時期まで顧客をつなぎとめられているかは疑問だ。

―― (3)については。
 田村 今後2~3年で5Gラインのシャットダウンが相次ぐ可能性がある。これまで5GラインではノートPCなどのIT用やスマートフォン(スマホ)用パネルを生産してきたが、IT用パネルの需要低迷により、5Gラインの稼働率は総じて低下している。そして、大型パネルの供給過剰化により、IT用パネルの生産は6G以上へシフトしていく。そして、LTPSフルHD液晶の増産に伴って、5Gライン生産のスマホ用a―Si HDパネル需要は今後減少を余儀なくされていく。すでにサムスンディスプレーは天安L5ラインを年内いっぱいでクローズすることを決めた。5G比率の高い台湾パネルメーカーでも、今後は同様の判断が下されるケースが出てくるとみている。


―― 中小型パネル市場に関してはいかがですか。
 田村 同じく3つポイントがある。(1)インセルの増加、(2)サムスンの有機EL外販本格化、(3)中国・天馬微電子のLTPS液晶立ち上げだ。特に(2)(3)がジャパンディスプレイやシャープといったLTPS液晶の先行メーカーに影響を及ぼし始めている。サムスンがA1ラインの償却を終え、A3ラインが本格稼働したことで、有機ELの価格をLTPS液晶並みに下げ、中国スマホ向け外販ビジネスが一気に立ち上がった。
 上期は中堅ブランドから採用が始まったが、現在はHuaweiなど大手ブランド向けでも実績を上げ始めた。また、装置導入からの立ち上げ期間、パネル生産歩留まり、高精細高品位パネル技術などでは先行メーカーにまだ及ばないものの、天馬微電子がLTPS液晶の出荷を15年第2四半期から本格化し、LTPS液晶のコモディティー化が始まった。サムスンの有機ELと中国・天馬微電子のLTPS液晶が競争相手となったことが、先行LTPS液晶メーカー3社の受注機会を徐々に削り始めているようだ。

―― LTPSの高解像度化も4Kまでで止まるのではないかと言われていますね。
 田村 有機ELでは中国のエバーディスプレーが量産拡大に積極的であり、17~18年にはLTPSも有機ELもフルHDクラスのコモディティー化が一気に進む。先行メーカーにはこれに対抗する戦略が必要だが、簡単ではないだろう。
 いずれにせよ、中国パネルメーカーの投資熱はやまない。世界のパネル生産能力は、今後18年まで年率6~9%で拡大し続ける見通しだ。中国におけるパネル生産能力が、17年には台湾、18年には韓国を追い抜く見込みだ。いつかは来ると言われてきた「中国インパクト」がついにやって来た。これに伴って、部材メーカーの中国展開がいっそう加速することも大いに予測される状況になった。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
https://technology.ihs.com/events/552152/30th-ihs-display-japan-forum
サイト内検索