電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第139回

日本の自動車企業は米国のIT支配者に勝てるのか


~アップル/グーグルが参入する次世代カーエレクトロニクスの行方~

2015/7/3

 トヨタ自動車は世界における自動車生産のチャンピオンである。名高いカンバン方式は、在庫を持たない高効率かつ低コストの生産方式としてトヨタが編み出したものだが、製造業全般において一時期は教科書としてもてはやされたものだ。

 トヨタの急成長時期は、実のところ2000~2007年までの7年間であった。2000年ごろには売り上げ15兆円であったトヨタは、大車輪のようなカンバン方式という技を駆使し、2007年には何と26兆円に売り上げをジャンプする。たった7年間で11兆円もの売り上げ増に成功するのだ。
 しかして、世界大恐慌とも言うべきリーマンショックが襲いかかり、サプライチェーンがズタズタになった東日本大震災が到来するにいたって、トヨタでさえ低迷への道を辿らざるを得ない状況となった。生産台数が一気に落ちていき、かつ現代など低プライスの海外車が闊歩する。こうした予測不能な事態に対しては、さすがのトヨタも参ったのだ。

 ところが、その苦境の時期にまたもやトヨタは「環境変動に強い生産システム」を作り上げた。筆者はIT系のジャーナリストであるから本当のところはよく分からないが、1日1000台を1分間で作るというシステムは、生産数量が半分の500台になれば作るのに2分かけても良い、というロジックのことなのだろう。また、生産技術者であっても生産企画に参加するというトヨタ流も作り上げた。そして2014年に大復活を果たし、宿敵BMWを破って世界チャンピオンの座を取り戻す。

現在の自動車にもこれだけのフレキシブル回路基板が使われている
現在の自動車にもこれだけの
フレキシブル回路基板が使われている
 トヨタ以外の日本の自動車企業も、モノづくりに関してはめちゃ強いことに定評がある。さてところが、次世代のインテリジェントタイプの自動車については、これまでのような日本方式が通用するかどうかに疑問を持つ人が多い。電気自動車(EV)になればエンジンそのものがなくなるわけだから、一番重要なエンジン制御の技術はあまり必要はなく、自動車そのものがスマホやタブレットのようなセットの箱物になると言い切る人もいる(もちろんそれは絶対違うというオピニオンもある)。EVにせよ、燃料電池車にせよ、次世代自動車における最大のポイントは完全自動走行ができるかということにかかっている。

 ここでまたもや登場してくるのが、現状のITにおける覇者であるアップル、そしてグーグルなのだ。グーグルは良く知られているとおり、完全自動走行に向けての実験を繰り返しており、2015年夏からはカリフォルニアのマウンテンビューの公道で本格的な実験走行が始まる。これまでの試作品とは異なり、今回の車は必要とあれば試乗者たちが運転できるようにハンドルとブレーキがついている。今のところ時速40km以下で実験を積み重ねていく考えだ。

 アップルのEV参入は2015年2月中旬に情報発信された。アップルのEVプロジェクトを率いるのはフォードにいたエンジニアであり、iPhoneなどの開発に貢献したスティーブ・ザデスキー氏だと呼ばれている。この自動車への本格参入計画はコードネーム「Titan」と呼ばれている。コンピューターから音楽、そして携帯電話(スマホ)へと進化してきたアップルは、いよいよ自動車に乗り出すのだ。EVの先頭に立つテセラ社から約50人がアップルに移っている。また、すでに自動車業界で働いた経験者がアップルには640人もいる。いわば、iCar開発が始まろうとしている。

 スマホ向けの基本ソフトを握るグーグルとアップルは、次世代コネクテッドカー(インターネットにつながる車)に向けて取り組みを強化している。グーグルは同社のOSであるアンドロイドを搭載したスマホを車内で使いやすくするアンドロイドオートを開発し、日産自動車やドイツのフォルクスワーゲンなどがこの陣営に加わっている。アップルはスマホなどの音声操作技術(Siri)を応用したカープレーを開発し、トヨタもアップル陣営に名を連ねている。インターネットにつなげ、自動走行という究極の姿に向かって、アップルとグーグルの野望がむき出しになってきた。

 こうしたグーグル/アップルの攻勢に対して、トヨタを筆頭格とする日本の自動車企業はどう対抗していくのか。またもや日本のお家芸が外国勢によって席巻されてしまうのか。これを懸念する人たちは数多い。自動車企業だけは、半導体や液晶で苦杯をなめた日本のIT企業と同じようになってほしくない、と考えるのは筆者だけではないだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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