ZACROS(株)(旧藤森工業)は、液晶ディスプレー(LCD)向け偏光板用保護フィルム市場で、シェア約6割を握る老舗メーカーだ。近年、新たなディスプレー分野でも存在感を高めている。製品や事業戦略などについて、執行役員 情報電子事業本部 アドバンストマテリアル事業部長の井村尚裕氏に伺った。
―― 事業の概要から。
井村 当社は、紙を基材にした剥離紙からスタートし、日本でいち早くその国産化に取り組んだ企業の1つである。アクリル板の保護紙などに使われる微粘着の技術を長年蓄積してきた。
群馬県沼田市に建設したハイクリーン工場の沼田事業所では、こうした微粘着技術の延長線上で、PETフィルムに微粘着を均一に塗る技術を確立した。偏光板向けは非常に難易度が高く、事業立ち上げの際は偏光板メーカーから異物管理や外観品質について、徹底的に鍛えていただいたという歴史がある。現在も偏光板向けの厳しい品質要求に対応できるのは、その経験がベースとなっている。
同フィルムは偏光板の製造時に使われる工程用フィルムで、最終製品には残らないが微粘着・防汚・帯電防止といった機能をコーティングで付与した多層構造になっている。貼った状態で検査を行うため、偏光板検査に影響しない高い外観品質が求められる。
―― 市場トップシェアを堅持されています。
井村 「世界最安値で世界最高品質」といわれるほど、価格と品質を両立している。顧客要求に応えるコストを実現するには、相当な歩留まりの高さを実現する必要がある。数千mものフィルムを巻いても欠点を抑えられる歩留まりの高さが、価格競争力の源泉となっている。
また、市場再編の影響もある。LG化学がLCD向け偏光板用保護フィルム事業を中国企業に売却した後、工場移設によるキャパ縮小の影響が出た。その結果、当社への発注が増えたという、サプライチェーンの変化があった。
―― 超広幅サイズへの対応を進めています。
井村 LCDの大画面化と世界的な需要増に対応するため、161億円を投じて最大3000mm幅に対応する新規塗工機を沼田事業所に整備中だ。世界では110型を超えるテレビも上市されており、テレビサイズの大型化は今後も進展する見通しだ。
3000mm幅で均一に塗工できるメーカーは世界になく、当社が世界で初めて挑むことになる。中国パネルメーカーから同サイズ幅を要求された際には驚いたが、当社が最初に「やる」と答えたことで、材料メーカー各社も対応が進む流れとなった。
―― 中国企業の参入について。
井村 「Buy China」の流れは確実に強まっているため、品質基準を多少緩めてでも中国ローカル製品を使う動きが出てきている。しかし、偏光板用保護フィルムは歩留まりが低いと成立しない事業だ。中国の台頭はあるものの、低価格かつ高い技術力が必須となる同分野に参入する企業は少ない。
―― 次世代テーマ製品の「高屈折率粘着剤」の開発について。
井村 用途としてはVRやAR向け、スマートフォンのカメラ回りの薄型化などを想定している。現行品は屈折率1.54~1.55を実現しているが、最終的に1.6を目指す。使用される材料面積は小さいが、将来性が高い分野とみて、2030年前後に市場投入する計画だ。
―― 新規用途の今後の製品展開について教えて下さい。
井村 新規用途向けの保護フィルムは、LCD偏光板向けとは用途も販売先も異なり、パネルメーカーが製造工程で使う工程フィルムだ。世界的に量産できるメーカーは当社と日系メーカーのもう1社に限られるが、高価格帯であることから中国ローカルの参入が急速に進んでいる。
新規用途の製造では、ポリイミド基板上に回路を形成するため、上保護・下保護に加えてサポートフィルムが必要となる。これらは偏光板用より厚く、総厚で110μm以上になる。厚い基材に均一に機能を塗布する必要があり、粘着剤も偏光板用とは異なる特殊品だ。糊切れや端部の品質など、使い勝手の差が日系とローカルの差になっており、当社品はフラグシップやハイエンドで採用されている。
―― これを契機に、事業の広がりも出てきています。
井村 新規用途向けを手がけたことで、パネルメーカーから直接声がかかるようになった。これにより、工程材だけでなく最終製品に残る部材の展開も視野に入ってきた。30年に向けて、これまでの工程材中心から部材領域へと取り組みを広げていく方針だ。工程材で築いた競争力をもとに、部材領域の需要を確実に捉えていく。
(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2026年7月2日号7面 掲載