電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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エコシステムによる収益化の可能性


~ワイヤレス技術~

2015/6/19

 新年度に入った。前年度は好業績だったが、今年度はどうしたらさらに伸ばせるか、デバイスメーカーの皆様もそろそろ考えなければならない時期ではなかろうか。ここ何度かこのコラムでIoT(Internet of Things)の要素技術について触れてきた。今回はそろそろ本丸に入ってみよう。

 IoTはとても大きなコンセプトであり、要素技術といっても多様なものが挙げられるが、あらゆるモノがネットワークにつながるという点では、ネットワーク、とりわけワイヤレス技術は主役級であるといえる。なかでも、これからセンサーやアクチュエーターなど、ノードのネットワーク化が想定されているため、近距離無線の注目度は非常に高い。

■ワイヤレスチップは成長市場だがシェア変動も多い

 グラフはBluetooth Smart ICの2012年および13年の世界シェアである。今回このシェアデータを取り上げた理由は、たった1年間で半導体のシェアがこれほど大きく変わったというサプライズである。BLE(Bluetooth Low Energy)市場はまだ新しく、市場規模は12~13年の1年間に数量ベースでは4倍以上と急成長を見せた。それにしても順位・シェアともに入れ替わった背景には何が起きたのであろうか。


■規模以外の強み

 13年にトップシェアに躍り出たNordic社はご存じのとおり、BluetoothおよびANTチップで高いシェアと地位を築いてきた有力メーカーである。直近の決算によると売上高は200億円程度、半導体メーカーの事業規模としては小さい。しかしながら、営業利益率(EBITマージン)は2桁を維持、DRAMやMPUのような設備投資の規模と資本のパワープレイとは別の土俵で、エッジのある事業展開をしていると筆者は推測する。

■成長市場へのコミットメント

 Bluetooth Smart IC市場における、ここ1~2年間の成長ドライバーはリスト型、ウオッチ型といったウエアラブル機器である。なかでもフィットネス・ヘルスケア用途では国内外のシステムメーカーが多数製品を発表しており、市場拡大が顕著となった。同社もこの成長市場で受け入れられる製品を投入した結果、シェアアップにつながった。

■外部との協業・ノンハードの重要性

 ここで問題となるのが、以前にコラムでも触れた収益性の問題である。低消費電力のBluetooth Smart ICですら、チップの価格は決して高いものではない。モジュール化されてもパーツ店などで10ドルそこそこで買えるものも少なくない。搭載される機器がコンシューマー・ヘルスケア向けとなれば、その程度に収めることになる。

 このような場合、チップの収益化が難しいと読者の皆様の多くが感じられるだろう。ここで重要と筆者が考えるのは、(1)パートナーシップと、(2)ノンハードの重要性である。

 Bluetooth Smart IC以外のワイヤレスチップベンダーの成功事例を見たところ、業界のガリバーといえるクアルコムですら、買収やパートナーシップを積極的に行っている。また、Bluetoothやそのほかのワイヤレス技術は規格こそあるものの、IoTのようにあらゆるものを対象とする多様なアプリケーションへの対応には、プロトコルスタックといったチップ本体以外の技術との親和性も重要性が高まっている。

 幸い日本にはワイヤレス技術に精通したエンジニアや、目立ちこそしないものの高い技術を持つモジュール開発企業が多数あると聞いている。IoT市場のポテンシャルは大きい、ゆえに課題や難題も多数あり、単独企業だけでは解決が難しいことも多く見える。これからはデバイスメーカーにも、エコシステムの構築を成長戦略の選択肢としていただきたいと筆者は考えている。



IHS Technology アナリスト ジャパンリサーチ 大庭光恵、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。
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