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オリンパス(株) 常務執行役員 研究開発センター長 窪田明氏


医療コアに17年売上高9200億円、国内3工場増強し15~16年稼働

2015/5/12

窪田明氏
窪田明氏
 消化器内視鏡で世界シェア7割を誇るオリンパス(株)(東京都新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス、Tel.03-3340-2111)は、2017年3月期の売上高9200億円を掲げる中期経営計画に取り組んでいる。このうち、医療事業で6500億円の達成を目標に、高い水準の設備投資とR&D投資を継続する。15年3月期第2四半期決算時には、通期見通しを5400億円から5480億円(前社見通しは7600億円を据置)へ上方修正するなど好調な医療機器事業について、同社常務執行役員で研究開発センター長の窪田明氏に伺った。

 ――医療事業の概況から。
上海トレーニングセンターに併設された外科機器のショールーム
上海トレーニングセンターに併設された
外科機器のショールーム
 窪田 14年3月期は全社売上高7133億円の69%に当たる4923億円(うち55%が内視鏡、45%が外科・処置具)の実績であったが、今期は70%を超える見通しである。内視鏡の市場別の社内シェアは、おおむね米国36%と欧米26%、国内22%で、残りが新興国となっている。新興国の伸びが著しく、この市場拡大を取り込みながら、消化器内視鏡の世界シェア7割を維持していく目標である。
 このため、6大陸200カ所以上のメンテナンスのネットワークに加え、日米欧と同等レベルのトレーニングセンターを中国の上海、北京に続き、インド国内数カ所の病院でも開設し、内視鏡医の育成を強化している。

 ――好調な要因は。
 窪田 最新技術を先取りして導入する製品開発と、消化器内視鏡検査/治療および内視鏡外科手術の件数増加がある。
 内視鏡は、「検査と治療が同時に行える」、「身体を切らずに、体内を直接カラー画像で観察できる」、「処置する場合、開腹手術と比較して、患者の負担を軽減できる」といったメリットが多く、入院期間の短縮で医療保険の負担も軽減できる。こうしたことから、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上および病院経営の効率化からのニーズや、新興国における病院設立の増加を背景に、内視鏡での早期診断、治療はグローバルに増え続けている。また、増え続ける製品需要を見越して工場を増強する。

 ――工場増強など設備投資について。
 窪田 当社の設備投資額は、業界でも高い設定で推移しており、14年3月期の実績が378億円(うち医療71%)で、今期は440億円規模となる。
 生産体制では、「北米、欧州、日本・アジアの3極体制の構築」を進めており、日本・アジアには、白河、会津、青森、日の出の国内4工場とベトナム工場がある。14年10月から白河工場、この3月に会津工場、さらに、4月に青森工場の各増築工事に着工し、15年から16年にかけて、相次いで稼働を開始する。
 白河工場は、内視鏡用ビデオプロセッサーや光源などを製造しており、半導体、基板を含めた電装関連の要素技術、回路設計、品質保証に強みを持っている。
 会津工場は、開発と製造が一体となり内視鏡の主要パーツである撮像ユニット、操作部、接続部などで構成するスコープを一貫製造している。ここでは、加工が難しいスコープ先端部のステンレス部品について自社で工作機械を開発し、差別化を図りながらノウハウを社内保持している。
 青森工場は、消化管内のポリープ切除に使う高周波スネアや胆管用処置具の生産で高い技術、ノウハウを有している。これら3工場の増強により、内視鏡の製造能力は3割アップする。日の出工場では、超音波内視鏡、超音波プローブ、内視鏡用超音波観測装置の超音波システム主要製品を生産する。

 ――北米、欧州を含めた生産体制は。
 窪田 医療事業の生産高の内訳は、国内7割、海外3割となっており、北米では買収したGyrus ACMIの米国4工場で、軟性鏡、硬性鏡、外科処置デバイス、メキシコ工場で腹腔鏡手術向け処置具を製造している。欧州では、OSTE(Olympus Surgical Technologies Europa)で外科用硬性鏡や処置具、エネルギー装置を生産する。
 米国では、医療機器の製造に必要な材料ベンダーが充実し、資材調達が容易であり、また、世界最大の医療機器市場であるため、「地産地消」の観点から最適な生産拠点と位置づけている。同時に、消化器内視鏡の製造は、様々な技術を組み合わせて細かく調整する「すり合わせの技術」が必要で、日本の強みを生かせるため、このノウハウは海外に持ち出さず、国内での製造を維持する。
 ベトナム工場は、青森工場のサテライト工場に位置づけ、内視鏡用処置具と関連製品を製造しており、アジア地域や欧州向けに処置具の生産をさらに拡大する方針である。

 ――技術開発について。
 窪田 年間の研究開発費は、12年3月期614億円、13年3月期634億円、14年3月期668億円と、おおむね売上高の9~10%で推移し、このうちの半分を医療分野が占めている。
 当社は1950年に世界で初となる胃カメラを実用化するなど、その黎明期からドクターのニーズを把握し、それを製品に反映するよう努め、例えば軟性内視鏡の繊細な操作性などで高い評価をいただいている。
 06年にはNBI(Narrow Band Imaging=狭帯域光観察)機能を搭載した内視鏡システムを投入、がん細胞の早期発見に貢献するとともに、低侵襲治療技術を進展させた。

外科用手術用3Dビデオスコープのイメージ
外科用手術用3Dビデオスコープのイメージ
 開発の方向として、高画質など基本性能の向上はもとより、新興国向けの消化器内視鏡分野の低価格な製品開発を進めながら、消化器から耳鼻咽喉科や泌尿器科へ適用を拡大していく。スコープのハイビジョン化、外科分野の手術室イメージング領域でのグローバルシェアの拡大および、外科事業の柱としてエネルギーデバイスの領域を強化する。その一例として、3Dビデオスコープや、切開に優れた超音波エネルギーと、止血封止に優れた高周波エネルギーを組み合わせたサンダービート(THUNDERBEAT)がある。
 このほか、カプセル内視鏡の高機能化や手術支援ロボットの開発推進などに取り組んでいる。これらを支えるのが、ドクターと連携し、長年培った内視鏡のノウハウと、カメラ/光学技術である。また、画像処理エンジン、MEMS/センサー技術、ワイヤレス技術、アルゴリズムやソフトウエア技術、半導体メーカーとの協業体制である。総じてデバイス技術に磨きをかけることが、他社との差別化を実現するポイントと考えている。

(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/編集長 倉知良次)

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