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聖マリアンナ医科大学病院 病院長 大坪毅人氏(1)


新入院棟955床稼働、急性期医療拡充し手術室20室とICU177床
夜間勤務医削減と遠隔診断導入で地域の働き方改革にも貢献、26年秋ごろに全体開業へ

2024/5/14

大坪毅人 病院長
大坪毅人 病院長
 聖マリアンナ医科大学病院(川崎市宮前区菅生 2-16-1、Tel.044-977-8111)は、創立50周年事業として菅生キャンパスリニューアル計画を進めており、1月から新入院棟(955床)が稼働を開始した。新入院棟および最新医療への取り組みについて同病院病院長の大坪毅人氏に聞いた。


―― 1月に稼働開始した新たな入院棟の紹介から。
聖マリアンナ医科大学病院の外観
聖マリアンナ医科大学病院の外観
IVR-CT
IVR-CT
 大坪 免震構造11階建てで、屋上階にはヘリポートを配置している。急性期医療を拡充するために、手術室と集中治療室(ICU)を増やしており、ICUは117床で、従来比25床増。手術室は20床とし、従来比5床増加している。そのため、看護師を増員した。新しい医療機器として、IVR-CT、PET-CT、放射線治療装置を導入した。IVR-CTは、血管造影のカテーテル(管)を入れながら、同時にCT撮影ができる装置。PET-CT検査装置は今回初めて設置した。2026年の病院全体の開業時には、総床面積は8万4500m²となり、従来の6万4500m²と比べ1.3倍になる。全体ではおよそ500億円のプロジェクトである。全病床数は955床で、従来の1175床から220床を減床した。
 菅生キャンパスリニューアル計画は、創立50周年事業として13年ごろから取り組んでいるもので、新病院のテーマは「選ばれる病院 人・社会・未来から」だ。「多様な高次機能を備え、人にやさしく、働きやすく、社会の変化に柔軟に対応できる未来志向型病院」をビジョンとしている。

―― 新入院棟の内容について。
手術室
手術室
ICU
ICU
 大坪 新入院棟は、救命センター、集中治療室、手術室を1、2、3階に集約し、3階には手術室とともに内視鏡センターを配置している。4階は滅菌搬送、薬剤部、SPD(院内物流管理)業務を設置。5階は集中治療室を含む周産期・産科、小児科、6階~11階は1フロアに3病棟の構成で一般病床を配置、11階南病棟は全室個室の特別室病棟になっている。
 新型コロナの教訓から、感染症対策を施しており、救命病棟の空気の流れを改修し、またEHCU(救急高度治療室)の患者数に応じた陰圧対応にしている。自然災害への備えとしては、日頃より病院防災部会が活動しているほか、90人近くのDMATおよびDPAT隊員を擁している。さらに今回ヘリポートを設置した。地震などの広域自然災害や多発交通事故などの局地災害へ備えたものである。

―― 新入院棟の稼働具合と、その後の計画について。
特別室
特別室
 大坪 新入院棟では、電子カルテを新しいシステムに切り替えたため、医療スタッフが慣れるまでに時間がかかっている。今後徐々に慣れていくとみている。
 現在新入院棟が完成したが、リニューアル計画の真っ最中であり、本館建物との距離が長く動線がまだ良くないため、患者さんおよび、医療従事者には不便をかけている。
 24年には別館を外来棟に改修し、さらにエントランス棟を増設する予定だ。エントランス棟には、聖堂のほかコンビニエンスストアやレストラン、誰でも利用できる休憩所を設置し、外来棟、入院棟とつなげる。
 24年度以降には病院本館を解体してバスロータリー、駐車場に整備し、26年秋ごろに全面開業する。その後、菅生キャンパス内施設のリニューアルとして医学部の建て替えを計画中である。

―― 新型コロナ感染症患者の状況はどうか。
 大坪 5月現在では、重症患者は入院されておらず、中等症患者のみとなっている。ウイルスは変異して弱毒化したため肺炎になる患者は減ったものの、感染力が強いため、市中での感染者数は増減を繰り返すだろう。以前のような呼吸器管理の必要性は低いが、もともとの持病が悪化することがあり、高齢者や基礎疾患を持つ患者への感染を油断できる状況ではない。高齢者や基礎疾患を持つ患者への感染の危惧を除けば、感染症法上での5類への移行は妥当とみている。

―― 病院運営および川崎北部医療圏の状況はどうか。
 大坪 当病院の現在の外来患者数は1日平均約2000人で、コロナ禍で20年は激減したが、最近は徐々に回復してきている。当病院の病床稼働率は、80%台後半(23年1月以降)といったところだ。急性期病院なので、病床稼働率は土日に下がり、月曜日から金曜日には増えて90%を超える。また、医業収入は順調だが、もっと頑張らなければならないと考えている。
 当病院の3つの主要な機能は、(1)特定機能病院として高度医療の提供、(2)地域中核病院としての救急医療を含む24時間体制の医療の提供、(3)災害拠点病院として緊急事態に備えることである。川崎市北部は人口増加地区であり、同一医療圏内には人口に比して大きな病院が少ない。働き方改革を目前として、当院はさらなる救急医療の充実と近隣医療機関との密接な連携により、地域内で完結できる医療を提供している。

―― 日本の社会全体で、看護師および介護士の不足が指摘されている。解決策や提言はあるか。
 大坪 マクロ的な解決策としては、外国人労働者の雇用やロボットの導入、ミクロ的な観点では、魅力ある職場作りが解決策になるだろうと考える。当病院は大学病院なので、医療従事者がスキルアップをしながら、やりがいを持って働いてもらう環境を整えることが、人材を確保するための良い手法と考え、現在取り組んでいる最中である。臨床研修医に加えて、医療従事者全職域対象の人財育成センターを設立し、新人教育、指導する側の教え方の教育、多職種の連携の充実を図っていく。

―― 医師の働き方改革について。
 大坪 当病院には現在50人以上の当直医師がいて、救急担当医としての夜間勤務にあたっている。医師の働き方改革のために、夜間勤務医の人数を減らしたいと考えており、そのため、現在の診療科ごとの当直体制から、全科を網羅する当直体制にしたいと考えている。ただし、救命救急の際に診断や治療を判断する立場の医師が現場からはずれるわけにはいかないので、IT技術を利用したオンコール医師へのコンサルティング体制構築が重要になると考えている。これは、医師が遠隔画像や遠隔通信技術を用いて診断するもので、例えば、診断・治療方法を判断する立場の専門医が自宅に居る際でも、現場からの要請によって救急医療現場を監視・観察し、即時に判断をくだせることを想定している。この技術とシステムを利用すれば、病院内での夜間勤務時間を減らすために効果的であると考えている。ただし、実現のためには全診療科からの了解と協力が必要になり、現在取り組んでいる。
 働き方改革が進むと中規模病院での夜間の救急体制特に1次、2次の救急体制にしわよせがくると考えられる。当病院の夜間救急の当直医師の勤務体制を効率化できれば、医療圏全体での夜間の救急医の当直体制に大いに貢献できると考えている。当病院が夜間の救急患者を受け入れ、昼間に他病院へ転院するというシステムが効果的と考えている。川崎市北部地域は人口増加地域であり、この医師の働き方改革に向けた、当院の取り組みは極めて重要であると考える。

(この稿続く)
(聞き手・笹倉聖一記者、安田遥香記者)

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