南東北グループ 医療法人社団 三成会 新百合ヶ丘総合病院(川崎市麻生区古沢都古255、Tel.044-322-9991)は、4月に新棟(RC造り地下1階地上5階建て延べ1万5399m²、186床)が完成、8月から脳卒中ケアユニット(SCU、9床)を稼働させ、新棟全体としてフル操業を開始した。院長の笹沼仁一氏のインタビュー2回目は、最先端医療への取り組みや病院の将来像について聞いた。
―― 新百合ヶ丘総合病院は、2012年の開院当初からロボットを導入するなど最先端医療に取り組んでいる。
笹沼 定位放射線治療装置「Cyber Knife」(サイバーナイフ)、手術支援ロボットシステム「da Vinci」(ダ・ヴィンチ)などを導入している。サイバーナイフは、体にメスを入れず、がんなどの病巣だけを多方向から狙い、放射線(エックス線)を集中照射する定位放射線治療装置である。病巣以外への副作用を極力抑える治療が可能だ。また、ダ・ヴィンチは立体感のある高解像度画像で患部を拡大し、肉眼では確認できない微細構造を見ながら、医師が3本のロボットアームを遠隔操作で動かして手術する。ロボットの腕は200度以上回転し、従来の腹空鏡手術と比べて可動域が格段に広がり、医師にとってイメージ通りの手術を可能にする。19年秋からは、人工関節置換術に対するロボット(MAKO)手術を行っている。
―― がん治療に力を入れている。
笹沼 当院では開院当初から、ピンポイント放射線治療に優れたコンピューター制御ロボットのサイバーナイフ治療を行ってきた。さらに17年からはIMRT(強度変調放射線治療)が正確に行える最新最高峰の汎用リニアック型治療機のバリアントゥルービーム(エグザクトラック位置合わせ装置付き)を稼働して、がん治療の三本柱の一つの放射線治療(他は手術治療と薬物治療)を2台体制で行っている。当院のサイバーナイフと、トゥルービームの2台体制はバランスが良く、患者のあらゆる状況に広く対処できる組み合わせである。また、がんの種類によっては必要に応じて、南東北グループ関連施設の陽子線治療、BNCT治療(ボロン中性子線治療)を勧めることもできる。陽子線治療施設は、南東北グループの脳神経疾患研究所附属南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市)に備わり、08年10月に開設、19年1月末までの治療患者数合計は4714人を数える。さらにBNCT施設も同研究所に備わり、15年11月に開設、20年から保険適用となった治療法である。
―― 笹沼院長は、南東北グループへの勤務歴34年だ。
笹沼 私は1986年に福島県立医科大学を卒業した後、同年に(財)脳神経疾患研究所附属総合南東北病院(福島県郡山市)の脳神経外科へ勤務、97年には(財)脳神経疾患研究所附属福島医療クリニック院長に就任、98年には(財)脳神経疾患研究所附属南東北福島病院の脳神経センター センター長に着任した。その後2003年には(財)脳神経疾患研究所附属総合南東北病院 理事長室・企画室 室長へと、医師として最初の約20年間を福島県内で務めた。06年からは東京へ移り(医)財団 健貢会 東京クリニック 理事長代行、10年には(医)財団 健貢会 総合東京病院 院長代行となり、12年からは川崎市で(医)社団 三成会 新百合ヶ丘総合病院 院長を務めている。関東での勤務先もすべて南東北グループの医療施設だ。
―― 医師になって良かったと思うこと、逆につらかったことは。
笹沼 医師になって良かったと思うことは、患者さんが病気になって困った時に頼られ、大変やりがいのある仕事であることだ。逆につらいと感じたのは、患者さんが病気にかかり究極の事態になった時に、他の人はその場から逃げることも可能だが、医師は逃げられないことだ。当院は、「すべては患者さんのために」という基本理念を掲げて医療に取り組んでいる。
私は、福島県立安積高校の出身で、高校2年生の時に、進路や進学先を決める際に医師への道を選び、また大学6年生時に父を脳卒中で亡くしたことがきっかけとなり自分の専門分野を脳外科に決めた。理事長のお世話になり、1986年から南東北グループでの勤務を始め、現在は当病院のマネジメントの職を遂行している。
―― 新百合ヶ丘総合病院の将来像について。
笹沼 医療が日進月歩で進む中で、大切なことは、患者がかかりたい病院であり続けることである。そのため、当病院は「すべては患者さんのために」という基本理念のもと、「地域医療」に貢献すると同時に、南東北グループが力を入れている「高度先端医療」を実践することにより、地域住民の方々の日常生活の安心に繋がることを目指し継続していく。医療のIT、AI、オンライン化への流れは必然で、最先端医療の提供に加えて、職員が働き続けたい病院であることも重要だ。
今回の新棟により、当院の施設としての機能面は格段に高まった。今後は人材育成、教育、採用に力を入れたい。病気はなくならないので、病院は将来も必要とされる。例えば30年後の医療に対応するには、現施設もやがて古くなる時が来る。その際には、社会情勢や人口動静に合わせて整備を検討することが必要になる。現敷地は広いが、法令によって建物容積率が低く設定されており、今後追加の新棟は建てられない。川崎市北部医療圏は、今後も人口増加が予想される地域であることから、現在地が適地かどうかの考察も求められるだろう。
(聞き手・笹倉聖一記者)
(この稿終わり)