電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第127回

アップル、グーグルですべてが決まってしまう世界でも日本は戦える!!


~30年以上にわたりITを見続けた男、石野雅彦氏が語る言葉~

2015/4/3

(株)東海東京調査センター 石野雅彦氏
(株)東海東京調査センター 石野雅彦氏
 「半導体産業が世界すべてで36兆円という状況にあって、アップルはたった1社で20兆円のキャッシュを持っている。時価総額は空前の90兆円となり、世界初の100兆円企業になろうとしている。これにITサービス企業のグーグルを加えれば、やはり世界のIT/半導体の行方は彼らが握っている、と言い切ってもよいだろう」

 うなるようにポツポツと語る富山県出身のこの男は石野雅彦氏である。石野氏は富山大学経済学部を卒業し、1983年に証券の世界に飛び込む。ちなみに、彼の卒論のテーマは「金融革命」というものであり、いまでこそこの言葉は多く語られるが、当時世の中にこの言葉を付した本は一切出ていなかった。

 石野氏は山一證券経済研究所に入り、ロンドン駐在を経て足掛け15年を過ごす。80年代初めにはまだ物流という考え方はなかったが、倉庫を担当し、やがてセブン-イレブンのPOSターミナル分野を研究するなかで、ITの持つ巨大さ、素晴らしさに出会っていく。よく知られているように、セブン-イレブンはPOSをマーケティングの手段と考え、NECのシステムをすべて入れて顧客志向をがっちりとつかみ、今日の繁栄を築くにいたった。

 その後、石野氏は日本興業銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などの勤務を経て、現在は東海東京調査センターにおいて半導体産業分析の仕事に携わっている。約30年以上もIT/半導体の世界を見てきた石野氏の論評は鋭いことで知られている。


 「日本のビジネス界の人たちや一般市民も含めて、多くの日本人が米国のとんでもない強さについて認識していない。全世界の株式時価総額は8000兆円を上回っているが、何と米国はこのうち4割弱の3000兆円を握っている。米国市場はリーマンショックの大底から3倍にも上昇するという躍進を遂げた。米国が風邪を引けば世界のあらゆる国に広がってしまう、という図式は今も続いており、さらにひどくなっている」(石野氏)

 実際のところ、リーマンショックで一気に凋落した米国が、目を見張る間もなく回復し、ここに来てはさらなる上昇を続けている。シェールガス革命を契機に製造業回帰が始まり、凋落した原因となった住宅市場も急速に好転し、雇用は一層順調に伸びていくばかりだ。結局は米国が世界の経済を牛耳っていることは間違いなく、とりわけITの分野ではひとり勝ちの強さを見せつけている。

 「インテル・マイクロソフトのウィンテル支配がようやく終わったかと思えば、アップルが携帯音楽プレーヤー、スマートフォン、タブレットの分野で世界を席巻し、さらにスマートテレビやウエアラブル端末の新成長分野を虎視眈々と狙っている。iPhoneは再び伸び続けており、昨年1年間で2億台を作り、2014年10~12月期だけで約2.8兆円の儲けを上げている」(石野氏)

 石野氏によれば、アップル/グーグルはパソコン、スマホときて次は当然のことながら自動車を狙っているという。年率4%で確実に成長する分野であり、2030年には年間1億4000万台の出荷が期待されると分析する。開拓民である米国の人たちは、「街が車を走らせる」、または「車が走ったところが道路」というシステム的な考え方が強いという。つまりは、街の全体設計システムの中に車が存在し、いわゆるIoTまたはM2Mで車とビッグデータがつながっていくと考えるのだ。それゆえに、島国である日本があくまでも車は単体ビジネスと考えることに対し、やはりITで成功したモデルを車に採用しようとする米国は、当然のことながら標準化を狙い、部品/素材の共通化に走っていくだろう。こうなればIT/半導体に続き、最強の自動車王国ニッポンの危機が迫っているともいえるのだ。

 「ところがそう簡単にはいかない。自動車についてはそれぞれの民族の志向がある。ヨーロッパはディーゼルエンジンが大好きであり、ブラジルはバイオに走っている。日本勢はハイブリッドで先行し、EVを経て燃料電池車への道を突き進む。米国はいったんは省エネルギー車志向になろうとしたが、デカイ車でガソリン垂れ流しがステータスと考える。彼らは、ゴージャスなガソリン車をやはり志向し、EVですら1000万円を超える高級車を考えてしまう。テスラモーターズを見ればよく分かる。つまりは、ある程度まで共通化できたとしても、やはり車はカスタム性が強い。ここに日本の出番があるのだ」(石野氏)

 自動車の分野もIT化が急速に進むこともあって、端末デバイスは一大成長を遂げると目されている。半導体、一般電子部品、液晶ディスプレーなど日本勢が活躍できるステージは確実にあるのだといえよう。ただし、昨今の風潮である海外での工場建設については、石野氏はかなり批判的なのだ。

 「日本のものづくりは勤勉な国民性、すりあわせ技術の巧みさ、と言う点で世界一であることは間違いない。これだけの円安が進んだ以上、重要デバイスは日本で作った方がよい。少子高齢化で人がいない、といわれるが、世界No.1のロボット産業技術をもっと使え、といいたい。電子デバイス、最先端素材、ロボット、次世代自動車などの卓越した技術を持つのに、自分の家(国)に多くの埋蔵金が埋まっていることに気づいていない日本人がいかに多いことか」(石野氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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