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平成博愛会 博愛記念病院 理事長 武久洋三氏(2)


「美しくなければ建物でも病院でもない」、サ高住台頭で「劣悪な環境の病院は退場」

2015/2/24

平成医療福祉グループの施設を紹介する武久氏(画面右:博愛記念病院、左:老人福祉施設ヴィラ勝占)
平成医療福祉グループの施設を紹介する武久氏(画面右:博愛記念病院、
左:老人福祉施設ヴィラ勝占)
 (医)平成博愛会 博愛記念病院の理事長 武久洋三氏による、JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナー「神奈川県『横浜記念病院』新設 平成医療福祉グループの首都圏進出など病院・施設建築計画と病院淘汰時代の生き残り戦略」のレポート2回目は、講演2.「『患者本位』の病院・施設建築(ハード面の工夫)」を中心に紹介する。

◇   ◇   ◇

◆「美しくなければ建物でも病院でもない」
平成医療福祉具グループの施設(画面右:老人保健施設ケアホーム南淡路、左:その広いホール)
平成医療福祉具グループの施設
(画面右:老人保健施設ケアホーム南淡路、
左:その広いホール)
 武久氏は、前回紹介した平成医療福祉グループの沿革を説明したうえで、講演2.「患者本位」の病院・施設建築(ハード面の工夫)へと話を進めた。
 「美しくなければ建物でない 病院でもない」をモットーに、「1に患者、2に職員」として、居室を広く、スタッフ室を狭くすることで、スタッフがより患者のそばにいられるようにする、廊下はなるべくとらない(なるべく「片廊下」)、階段を作るよりエレベーターといった工夫を施している。
 患者が過ごしやすい環境作りでは、温度や湿度など院内の環境が快適に保たれていること、敷地内禁煙を徹底していること、病院内に売店があること、バリアフリーやウォシュレットなど患者に優しい設備管理ができていることを挙げ、さらに、開放的な空間づくりとして、光と風を多く取り込めるような工夫を施しており、美大出身の知人とともに、武久氏自らデザインを担当している。
平成医療福祉グループの施設(玖珂同仁病院(現在の山口平成病院)リハビリセンター)
平成医療福祉グループの施設
(玖珂同仁病院(現在の山口平成病院)リハビリセンター)
 解説しながら、博愛記念病院正面、介護老人福祉施設ヴィラ勝占、玖珂同仁病院(現在の山口平成病院)リハビリセンター(1990年7月「医院建築No.10」掲載)、世田谷記念病院正面および中庭、兵庫県の介護老人保健施設南淡路正面および広いホール、岸和田平成病院正面、中庭、内部写真2点、三重県の介護老人福祉施設ヴィラ四日市増築部分を写真で紹介した。

◆東京都から山口県まで数多くの病院を再建
平成医療福祉グループの施設(画面左:世田谷記念病院外観、右:その中庭)
平成医療福祉グループの施設
(画面左:世田谷記念病院外観、右:その中庭)
 続いて、経営難から抜け出すことに成功した再建事例へと講演を進めた。武久氏は、「美容形成外科と異なり、通常の病院、医療機関は診療の価格を高くしたり安くしたりできないが、普通に経営していれば5%くらいの経常利益を上げられるものの、運営を誤ると赤字となる」と前置きし、具体的な施設継承・再生事例を紹介した。
 東京都内A病院は、09年10月の武久氏就任前は146床(一般94床、回復期リハ44床、亜急性期8床)の構成で、民事再生法の適用を受け、09年4~9月は休止していたが、武久氏が就任して半年で経営が安定。年度による増減はあるものの、患者1人の1日あたりの収入は、10年4月の2万898円が、14年3月は2万4604円、14年4月の診療報酬改定で2万3822円となった。内装工事に2億円を投資した。
 東京都B病院は、09年10月の就任前の病床414床(精神科急性期治療病棟42、精神科病棟入院基本料312床、精神療養病棟入院料60床)、精神科デイケア、精神科デイナイトケア、高齢者グループホーム(1ユニット8人)に加え、段階的に重度認知症患者デイケア(定員20人)、小規模多機能型居宅介護(通所12人、泊まり4人)、居宅介護支援事業所、診療所(外来診療&精神科デイケア30人)を開設。10年4月の1万4844円から14年3月に1万6340円、14年4月の報酬改定を受け1万5974円となり、おおむね2億5000万円の利益を計上している。スプリンクラー設置に1億5000万円を投資した。
 東京都内C病院では、10年10月の就任前が167床(介護療養病床)、デイサービス、訪問看護、居宅介護支援事業を手がけていたが、就任後に徐々に変更し、現在167床の構成。地域包括ケア入院医療管理料2が23床、医療療養(20対1、在宅復帰強化型)60床、医療療養37床、回復期リハ47床となっており、デイケアと訪問リハビリを加えた。就任後すぐに黒字化を達成、10年10月の1万4519円から12年10月に2万2310円、その後も13年10月の2万4338円をピークに2万3000円台をキープしている。
 大阪府D病院は、04年3月の就任前が病院273床(医療療養病床2が93床、介護療養病床180床)、デイケア(定員20人)、居宅介護支援事業所、訪問看護、訪問リハビリを手がけていたが、就任後の改善で、病床273床のうち医療療養病床1を228床(うち在宅復帰機能強化型48床)、回復期リハ病棟2を44床に変更し、デイケアの定員を30人に増員、小規模多機能型居宅介護(通い15人、泊まり5人)を追加した。収入は04年4月の1万5875円から10年4月には2万626円と大台に乗り、2万1000~2万2000円台をキープしている。
 大阪府E病院のケースでは、07年2月の就任前に、149床(医療療養病床2が28床、介護療養病床121床)を備え、訪問看護を手がけていたが、現在では、149床の内訳を医療療養病床1が104床、回復期リハ病棟1が45床とし、デイケア(定員28人)、在宅サービス(訪問リハビリ、居宅介護支援事業)を加えている。収入は07年4月の1万3349円から09年10月に2万722円と大台に乗せ、以後、病床構成の変更やサービスの追加などで収入を安定させ、2万4000円台で推移している。14年8月には病院の移転新築を行った。

◆「収入を上げれば、人件費比率は下がる」
 武久氏は、人件費比率が60~70%に達している場合、人件費を引き下げるにはどうすればいいかを考えるが、私なら給料の高い人を辞めさせることはしない。そのままの給与体系で、「収入を上げる」ことをする。その結果、人件費比率が下がるとしている。

◆増収は「地域に眠るニーズを探し当てること」
 続けて、「理事長は、単価を上げることを考えなければいけないが、それには、どういうニーズが地域に眠っているのかを探し当てることだ」と秘訣を披露した。

◆一般病床に10万人以上の慢性期高齢者
 日本では、精神病床、結核病床、感染症病床以外の、その他病床を「一般病床」と「療養病床」に区分するとして、03年8月末までにそのいずれかに分けて届け出をするよう通達が出された。
 この際、その時点で増改築が終了しているところは病床面積6.4m²、廊下幅2.7mといった基準をクリアしているため療養病床として届け出が可能であったが、実質慢性期高齢者が多いにもかかわらず、古いまま6~8人部屋もあるような病院は一般病床としてしか届け出ができなかった。従って急性期病床といわれる一般病床の中に慢性期高齢者の入院が10万人以上含まれているという現状に至る経緯を解説した。
 1998年ごろに、療養環境改善に対する手厚い診療報酬で病院の改修や増改築を行う病院が多くなり、03年8月末時点で、すべての病床の改装を終えたところは、医師・看護師の数と入院患者の状態で病棟を「一般」と「療養」に分けて届け出た。一部の改装にとどまったところは、改装した病棟を「療養」、改装できなかった古い病棟を「一般」として届け出、全く改装しなかったところは、入院患者の実情にかかわらずすべて「一般」として届け出を行った。その結果、一般病床は約90万床、療養病床は約38万床となった。

◆高齢者患者激増するも患者が減る病院
 療養病床に転換できないので、古い基準の一般病床4.3m²、6~10人部屋でも認められ、一般病床として運営がなされている。さらに、以前から厚生労働省が一般病床は急性期病床だと通達していたことから、療養環境の悪い中小病院で、実質は慢性期高齢者患者が多い病院でも、自称「急性期病院」と思いながら運営されてきているという現状を指摘した。
 高齢者患者が激増するなかでも、患者の減っている病院がある。暗い、臭い、汚い、狭い、マンネリ、不親切、高齢者高額差額金、規則ずくめといった環境が敬遠され、最近ではサ高住との競合も加わっている。武久氏は、「ハードのリニューアルを何十年もしていないところが継続して運営できていることは、他の産業ではほとんどない」と強調しながら、50年代の住居は、6帖一間に5~6人は当たり前であったが、80年代には多くの人が個室を得るようになっていた。病院は50年代から80年代に至っても6~10人部屋の状態であった。06年には、住居において子供を含めてほとんどの人が個室を持つ一方、病院では4人部屋も増えたが、それ以上の10人部屋までの病室も依然残る。介護保険施設ではユニットケアがようやくスタートした。11年には、住居においては「生活保護世帯でも個室、国民すべて個室」の時代を迎えた。引き続き、病院では4~10人部屋が並存し、介護保険施設ではユニットケアから多床室へと後退が見られ、生活環境や質の向上に比べて、病院などの環境整備が遅れていることを改めて指摘した。

◆劣悪な環境の病院は退場、サ高住との競合も
 そのうえで、地域の中小病院で6~10人部屋などの多床室の多い療養環境の悪い病院では、在宅療養支援病院にはなれない。そういう一般病床は、医療市場から退場しなければならないだろうとの必然性を指摘し、競争相手は他の病院ではなく、居住系の施設であると述べた。サ高住の住民は、医師、看護師、介護士は「必要であれば、呼べば問題無い」と考えるなど合理的である。高齢者は病院の敷地周辺の介護施設や住宅に入りたがる傾向があり、また、医療法人、福祉法人は施設・住居と距離が離れると報酬が減額されるが、それにとらわれるより、距離が離れていても運転手を使って送迎するほうがコストと収入面で有利、という発想の転換が必要と説く。
 サ高住は、11年11月の制度発足以来、右肩上がりで増え、14年5月末には14万8000戸を突破し、25年には20万~25万戸に達すると見られ、武久氏はその分、病床が減ると見ている。
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