商業施設新聞
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第463回

ヒューリック(株) 常務執行役員 バリューアッド事業部長 黒部三樹氏


29年までに開発・建て替え目標100件
多彩な取り組みで逆風に対抗

2025/1/7

ヒューリック(株) 常務執行役員 バリューアッド事業部長 黒部三樹氏
 ヒューリック(株)(東京都中央区)は2029年までに、都内を中心に100件の開発・建て替えを推進する目標を中長期経営計画で掲げる。積極的に開発を進める一方、建築費が高騰し目標数値達成や事業化のハードルが高くなる中、これをどう乗り越えていくのか。常務執行役員でバリューアッド事業部長の黒部三樹氏に方策などを聞いた。

―― 取得の状況など、足元はどうですか。
 黒部 建築費の高騰で、新築開発が難しい状勢にある。商業やオフィス賃料が伸びない中でも、銀座、表参道、青山、渋谷の超都心エリアは路面賃料が伸びており、工事費を吸収できる可能性がある。今後は、路面賃料が期待できる超都心の取得を優先的に進めていく形になるだろう。
 アセットタイプではホテルが好調だ。当社が展開する「ゲートホテル」や高級旅館「ふふ」も工事費を吸収できる余地がある。他方、千葉市にある築20年の商業施設「ワンズモール」を取得した。核店舗にロピア、ドン・キホーテを揃えるSCであり、当社が手がける郊外型SC再生事業のモデルケースとすべく、今冬から大規模改装に着手する。今後はこうした既存施設の改装案件にも積極的に取り組んでいきたい。

―― 事業参入の背景は。
 黒部 きっかけは、イトーヨーカドー店舗のバリューアッド事業として取り組んでいる当社のNSC型商業施設シリーズの「LICOPA」だ。第1弾のLICOPA鶴見は21年9月開業で、既存施設の改装を伴ったSCに転換した。第2弾は24年春開業のLICOPA川崎で、既存施設の同一敷地内に新築増築する手法を取った。
 これにより改装と増築をそれぞれ実施し知見を得ており、この集大成が11月29日に第1期開業したLICOPA東大和だ。25年夏には新築棟が竣工する。取得済のイトーヨーカドー物件は他にもあるが、当該物件はもとより、その他の既存施設の活性化・バリューアッド事業について機会があれば積極的に実施していく考えだ。

―― テナントビル「&New」シリーズについては。
 黒部 前回のインタビュー(23年1月31日号掲載)で&Newを年間2棟、LICOPAを年間1棟開発すると申し上げた。LICOPAは前述のとおりだが、&Newは順調だ。23年6月、銀座みゆき通りに「&NewGINZA MIYUKI6」が竣工し、1~3階にBALLYの日本旗艦店が出店した。新規も用地取得を進めており、重点エリアの表参道のほか、新橋、吉祥寺で取得した。秋葉原でも2物件を取得しているが、秋葉原はカルチャー系店舗の出店ニーズが極めて高いことを実感する。

―― それ以外には。
 黒部 銀座1丁目ではビルを建て替えて低層にブランド店、中層にオフィス、中高層が「ふふ」となる複合開発が進行中だ。また、銀座コアの解体工事に着手し、25年に着工する。青山ビルも28年竣工に向け解体に着手したが、低層階は商業とし、非常にテナントの引き合いが強い。また、自由が丘駅前で進めている自由が丘1丁目29番地区再開発事業は15階建てのうち5階まで商業が入り、リーシングが順調に進んでいる。

―― 東京以外では。
 黒部 神奈川で前述のLICOPAのほかに、桜木町駅前に、当社が取得し運営するコレットマーレがある。この物件で住商アーバン開発とのご縁ができ、ワンズモールや自由が丘再開発での連携につながっている。
 ホテルでは「ザ・ゲートホテル横浜」が25年2月の開業を控えるほか、旧城ヶ島京急ホテル跡地を借り受けて開発した「ふふ城ヶ島」がいよいよ25年開業予定だ。
 ユニークなところでは、JFEスチール東日本製鉄所南渡田エリア北地区北側で研究開発拠点を整備する。SMを中心とした商業施設と、研究者の宿泊ニーズに応える居住棟が併設される大規模な面開発で、25年に着工する予定だ。

―― 地方都市は。
 黒部 「ヒューリック福岡ビル建替計画」「ヒューリックスクエア札幌」が挙げられる。ザ・ゲートホテルやオフィス、商業店舗の複合ビルとなる。大阪では当社を筆頭にJR西日本やパルコも参画する「心斎橋プロジェクト」が進行中だ。

―― 開発が多彩ですが、物流施設などは。
 黒部 埼玉県と千葉県内の着工済み案件は25年竣工予定だが、新規開発についてはトーンダウンしている。物流の事業費に占める建設コストの割合が大きく、昨今の工事費高騰の状況では厳しいと認識している。
 今、データセンターに注力しており、「小舟町プロジェクト」が25年夏に竣工する。通信の接続遅延が少ない都心立地は圧倒的優位性がある。最近では東京メトロから江東区塩浜の用地を賃借し、25年春に着工する。さらに都心部でも用地を仕込んでいる。当社はDC事業者と運営会社を設立し、開発からリーシングを含めた運営まで手がけている唯一のデベロッパーではないか。

―― 最後に抱負をお聞かせください。
 黒部 今、新築案件をゼネコンに依頼すると、見積額が非常に高く、また多数の受注残を抱え、2~3年先まで手一杯というのが少なくない。こうしたなか、既存施設の改修も選択肢にある。&Newは新築が多いが、改修によるバリューを提供できないか検討している。既存施設の改修工事は中小の施工会社でも十分対応できる。我々がこれまで培ってきたネットワークが活かせるだろう。


(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2576号(2024年12月17日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.457

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