大手調査会社のOMDIAは、1月25~26日にFPD市場総合セミナー「第46回 ディスプレイ産業フォーラム」を品川グランドホール(東京都港区)で開催する。「ディスプレイ市場トピック」を担当するシニアディレクターの謝勤益(デビッド・シェー)氏に2024年市場の注目ポイントを伺った。
―― 4年のFPD市場は復調が期待されます。
謝 24年は「需要回復」の年になる。面積ベースの需要増加率は23年の1.5%から24年は7%、生産キャパシティーの増加率は23年のマイナス1%から24年は1.9%のプラスに転換し、台数ベースでも回復する見通しだ。非需要期の1~3月期こそ稼働率が60%以下まで落ち込むが、これを境に4~6月期から本格的な上昇に転じる。
ちなみに、中国のBOE、CSOT、HKCは旧正月の約2週間にわたり稼働を休止するという、かつてない激しい調整を実施する。従来は供給過剰が深刻化してから稼働を調整していたが、今回は事前に行うため影響を最小化できる。このため1~3月期のパネル価格は安定化し、4~6月期からの急速な回復につながるはずだ。
―― テレビ市場は。
謝 主力の中国市場で台数の減少が続いているが、平均サイズの大型化が予想より早く進展している。23年11月時点で平均52.5インチとなり、55インチ以上の伸びが大きい。24年はパリ五輪やサッカーのEURO2024、スーパーボウル、MBAファイナルなど大型スポーツイベントが目白押しで、テレビ各社がプロモーションに積極的だ。また、欧州市場向けは紅海をめぐる物流に懸念があるため発注を前倒しする可能性が高く、これも1~3月期の価格安定に寄与しそうだ。欧州市場の復調は、中国や米国よりも早いタイミングで来そうだ。
また、平均サイズの大型化に伴い、32インチ市場が6000万台から4000万台へ縮小しているため、これを40インチへ大型化する取り組みが強まる。40インチはこれまでイノラックスがG6で生産しているだけだったが、これにBOEとHKCがG8.5で参入してくる。
―― 有機ELテレビやミニLEDバックライト(BLU)の見通しは。
謝 サムスンVDがLG製WOLEDの採用を開始する。これによりサムスンVDは、WOLEDテレビとQD―OLEDテレビを各100万台販売する計画を立てている。有機ELテレビ全体では、液晶との価格差が広がったため23年は500万台にとどまったが、24年は700万台が見込まれる。
成長率だけでみれば、有機ELテレビよりもミニLED―BLU液晶テレビのほうが高い。サムスンVDが23年の200万台から24年は300万台へ販売目標を引き上げるほか、ハイセンスやTCLといった中国ブランドもラインアップの中心に据える。23年の400万台から24年は650万台、25年には1000万台へ増えていくだろう。
―― スマートフォンなどの中小型市場は。
謝 スマートウオッチ用を含めた中小型有機EL市場で中国製のシェアがついに40%まで上昇したが、中国メーカーは総じて利益を出せていない。サムスンディスプレーが20%以上の利益率を確保しているのとは対照的だ。これに伴いフレキシブルを中心に値上げ要請が続いており、24年もこの流れが続きそうだ。
車載用は台数、面積ともに伸び続けている。23年は2億台を超え、24年も5%成長が見込める。なかでも、消費電力にメリットがあるLTPS液晶が成長しており、23年の27%から24年は30%以上に構成比が高まるだろう。
―― AR/VRは。
謝 Meta QuestやソニーPSVR2などの23年出荷実績が振るわなかったため、残念ながら予測を下方修正する。23年は2100万台から1700万台、24年は3000万台から2000万台へ見直した。24年にはアップルVision Proが登場する。販売台数を40万台と予想しているが、事業展開を含めて将来見通しはまだ不透明だ。このため、OLEDoSを供給するソニーにとっても新規投資のリスクが高く、仮に需要が先々伸びるならば中国メーカーへのライセンス供与や生産委託が検討されるのではないか。
―― 設備投資は。
謝 液晶+有機EL+マイクロLEDで23年は30億ドルにとどまったが、24年は77億ドル、25年は80億ドル、26年は83億ドル、27年は101億ドルと年々増えていく。IT用有機ELのG8.6投資と、ジャパンディスプレイのeLEAPに代表されるフォトリソ有機EL技術への投資が牽引役になっていく。
24年に関してはM&Aにも注目している。中国メーカーが中国の工場を取得するという動きだ。BOEとスカイワースがLGの広州G8.5液晶工場の取得を検討しているほか、BOEがビジョノックスを買収するのではという話も出ている。仮にBOEがLG広州を買収すれば、TFT液晶市場のシェアは26%から30%に上がる。これに対抗するため、CSOTがSDPの広州G10.5を買収してシェアを22%から25%へ上げるのではとも言われており、様々な可能性が浮上している。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
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